徘徊高齢者の早期発見のために…先端技術の登録制度
事件や事故、自然災害などで行方不明者が…などというニュースを耳にすると、たとえ1人でも心が痛むものです。どこで、どうしているのだろう。家族はどんな思いだろう…などと考えてしまいます。ところが一方で、ニュースにならないものの、毎年、多くの人が行方不明になっているという事実もあります。平成27年中に警察が届出を受理した認知症もしくは認知症の疑いのある人の行方不明者数は、1万2208人。「認知症」は、行方不明の原因としては「家族関係」に次いで2番目の多さです。
群馬県前橋市の広報紙『広報まえばし 平成29年4月15日号』が取り上げていたのは、このような高齢者などが徘徊で行方不明になった場合に備える「家族支援位置情報提供サービス」についての告知です。
記事によると、前橋市では、徘徊高齢者の早期発見のために「徘徊高齢者等事前登録制度」を開始。これは、警察や県内のシステム開発企業と連携して、「手のひら静脈認証」というテクノロジーを導入しておこなうもので、身分証明書などを持たずに外出して保護された場合でも、あらかじめ静脈パターンを登録しておくことで、すぐに身元が特定できる…というシステムです。対象は、市内在住の65歳以上で認知症による徘徊行動の恐れのある人。登録は無料ということです。
認知症による徘徊で行方不明になった高齢者は、早期発見がとても大切だといいます。ある調査によると、当日中に見つかれば8割以上が生存しているものの、翌日なら約6割…と時間の経過とともに生存率は低下していき、5日目以降になると生存者はいなかったといいます。
実は私も徘徊しているのかな、と思われる高齢者の方に、早朝、道で出会ったことがあります。こんな時間にパジャマ姿で…と思ったのですが、声をかけると、いたって普通に「散歩」と答えられました。心に疑問を残したまま、しばらく歩いて行ったのですが、振り返るとあたりをキョロキョロされていて、やはり道がわからないような気配。逡巡した挙句、近くの交番に声をかけることにしました。
所用が済んで、1時間ぐらい後、件の交番の前を通りかかると、困り顔の警察官とあの高齢者の方がまだ向かい合って座っていました。もし自分の家がすぐわかる状態であれば、とっくに帰宅されていたはずですから、やはり徘徊されていたのだと思います。
あのお年寄りは、無事家に帰られたのか、今も心に引っかかっています。前橋市の徘徊高齢者等事前登録制度で登録されていたら、すぐに帰ることができたことでしょう。しかし、この制度も、現状では市外で保護された場合には対応できないなどの課題もあるそうです。前橋市のこの先進事例が、いろいろな自治体の目に留まり、さらに広がっていくことを期待しています。