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当麻の大自然に学ぶ保育園

「子供のお金教育を考える会」代表、文部科学省消費者教育アドバイザー、神奈川県消費生活審議会委員、経済教育学会理事
あんびるえつこ

2018.11.19 広報とうま「我が郷土」 2018年11月号 北海道当麻町

娘の幼稚園は、都バスに乗って30分、急な坂を上って5分…と、我が家からは少し遠い場所にありました。園バスもなく、給食もなく、今、流行の早期教育もしない、この幼稚園を選んだのには訳がありました。そこには広い土の園庭と、都心にありながらも自然を感じられるビオトープがあったからです。今は高校生になった娘ですが、秋になり、枯れ葉が舞うようになると、「幼稚園のとき、園庭に落ちてきた枯れ葉を集めて、焼き芋を焼いたなあ。みんな電線のスズメみたいに、階段に一列に並んで、焼けるのをじっと待つんだよ」などと、懐かしそうに話してくれます。

春には木を彩り、夏には日陰をつくってくれていた葉が枯れ落ち、命の最後の仕事のように、おいしい焼き芋を作ってくれる…。そんな生命の営みを肌で感じて育つことができた娘は、なんて幸せなのだろうと、かの幼稚園には今でも感謝の念に堪えません。

そんなことを思い出しながら、北海道当麻町の広報紙『広報とうま「我が郷土」 2018年11月号』 の「連載特集 山とともに」を読みました。紹介されていたのは、「自然自遊学苑トーマスチャイルドハウス緑郷」。元学校教員の佐々木太一さんと、元保育園教諭の妻・美津子さんが、子どもたちを自然の中で教育したいとしてつくった、無認可保育園です。

「狭い部屋の中では、思う存分、体を動かして遊べない」「小さいうちから自然の中で育っていくと立派なしっかりとした考え方をもつ、そういう大人になると思っています」と佐々木さん。

「しっかりとした考え方」をもつ人間を涵養することも、もちろんのこと。複雑で神秘に満ちた自然と対峙し、対話し、学びとっていくという体験は、旺盛なチャレンジ能力や創造性が必要とされる、この知識基盤社会にあっては、有意義な“教育”であるといえるのかもしれません。英語や漢字、計算といった早期教育を取り入れる幼稚園・保育園が注目を集めている昨今ですが、こうした目に見える力はコンピューターやAIが得意とするところでもあるのですから。

より早いこと、わかりやすいことを求める文明社会の中で、私たちは子どもにも目に見えて、わかる成長を求めてしまいがちです。悠長に、自然の中での何気ない体験を見守り、目に見えない力が培われていくことを信じて子どもの成長を待つ…などということは、実は大人の方が苦手になってしまっているのかもしれません。スズメのように一列に座ってじっとおいしい焼き芋が焼けるのを、ただ待ち望んでいた子どもたちのような忍耐強さを、私たち大人も見習いたいものです。

 

連載特集 山とともに

〒104-0061 東京都中央区銀座3-4-1 大倉別館ビル5階

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