自分史フォトブック作成を通して 親子、地域をつなげる試みとは?
私の実家は家から電車で2時間弱のところにあります。決して遠いとは言えない距離です。80歳を超えた両親がふたりで暮らしているのですから、もっと頻繁に帰らなければ…とは思います。しかし往復4時間かかると思うと、なにか“きかっけ”がないと、なかなか重い腰が上がらないのです。
そんな高齢者と、もう中年になった子どもとの微妙な関係を見事にとらえた面白い企画を見つけました。東京都文京区の広報紙『区報ぶんきょう2019年4月10日号』に掲載されていた「親子で紡ぐ自分史(フォトブック)」です。
これは親子で楽しかった思い出などを語り合いながら、アルバムから写真を選び、自分史フォトブックを作るというもの。その際、自宅に相談員が訪問してくれて、親子(家族など)の作業をサポートしてくれるそうです。しかもこの企画、作成支援だけでは終わりません。作業のなかで聞いた話を参考に、相談員が区の事業や地域の集まりなどを紹介し、新たなつながりのきっかけを提供してくれる、というのです。自分史フォトブックを作るという作業を「きかっけ」に、親子での語らいの場、そしてさらには住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるための地域とのつながり方も提案してもらえる、というわけです。
対象は区内在住の高齢者とその家族など。企画の趣旨から、ひとり暮らしや日中ひとりで過ごしている75歳以上の方が優先で、家族などは区外在住も可ということです。
消費者教育の啓発のために地方を訪れた際、市の方が「高齢化が進んだ今、行政はサービスを“提供する”だけでなく、“届ける”ことが必要」とおっしゃっていたことを思い出しました。自宅を訪問し、自分史フォトブック作成サポートというサービスを届けるなかで、ニーズを探り、ピッタリの情報を届ける…。「親子で紡ぐ自分史(フォトブック)」の企画には、本当にきめ細やかな、届けるサービスの形が見てとれます。
このサービスを受けられるのは、抽選で10組。細かなサービスだけに、人数に限りがあるのは仕方のないことかもしれません。しかし「最近、ずっと家にいるの」と、父の社会からの孤立を愚痴る、実家の母の言葉が思い出され、必要とする人に、このサービスがゆきとどき、地域での絆の構築に十分に寄与することを願わずにいられません。