“事実の力”で訴える 認知症を「ほっとかないよ」
鹿児島県霧島市の広報紙『広報きりしま 2019年8月上旬号』の特集は、「ほっとかないよ みんなで寄り添う認知症」。記事は、下校中の児童が通学路で認知症の高齢女性に声を掛け、人命救助につながったという話から始まります。
高齢女性が用水路沿いの柵をくぐろうとしていている姿を見て、小学6年の児童が、足がすくんだけれど「ほっとけない」と思って声をかけたこと。一緒にいた同級生たちと必死で引き止めたこと。そして、後から来た児童や通り掛かったランニング中の人に協力を求めたことなど、状況が詳しく書かれていました。
認知症による行方不明者が増加していると報じられても、どこか他人事のように感じてしまいがちです。しかし自分の街で起きた出来事として報じられると、がぜん身近なものに感じられます。そしてさらに小学生が人の命を救ったとなると、自分にもできるのではないかと勇気さえ湧いてきます。
認知症をみんなで見守りましょうという“広報”や“啓発”にはない、“事実の力”とでもいうのでしょうか。広報紙には、このようなアプローチの仕方があるのだと気づかされました。
この小学生の話に続き、記事では、認知症による行方不明者の生存率は発見が5日を超えると0%だったという調査結果など、客観的なデータをもとに説明。さらに認知症は寄り添う病気だという専門家の話、見守りに必要な知識…と続きます。
そして「認知症サポーター養成講座」の案内と、参加した人の感想も。講座を受講したコンビニエンスストアの店員の方のコメントには「当店には1日に数回同じ商品や1人で食べきれない量の商品を買うお客さま、お金の払い方が分からないお客さまも来ます。そんなときは、口調や目線を合わせて優しく説明し手助けをするよう心掛けています」と。そうか、こうすればいいのかと、私も「ほっとかないよ」と動き出したい気持ちにさせてくれます。
実に見事な構成で、認知症の見守りを「我が事」として考えられるようにしてくれる特集です。記事に「認知症の人と接する機会が少ない人に何ができるのかを考えた特集」とありましたが、私も認知症の人と接する機会が少ない一人として、大いに心を動かされ、そして寄り添うことを学びました。