共生社会とは…見守る“温かい気持ち”を共有する社会
ある日、やや混んでいる地下鉄に乗っていたところ、大きな盲導犬を連れた女性が乗ってきました。 私を含め立っている人みんなでスペースを空け通れるようにすると、優先席に座っていた若者がすっくと立ち、席を譲りました。それでも犬が優先席の前に座ったら、誰かが犬の足を踏んでしまうのではないかと、みんなで固唾をのんで様子をうかがっていました。すると席に飼い主を誘導し終えた犬は、座った飼い主の足の裏側にすり寄り、椅子と足とのわずかな隙間に滑り込んで身を丸め、小さくなったのです。なるほど、これで飼い主の足に守られて、立っている人に踏まれなくてすみます。その様子を見て、みんなで目と目を合わせて、微笑みあいました。
この出来事を思い出したのは、島根県松江市の広報紙『市報松江 2019年11月号』の特集「だれもが住みよいまちに~こころのバリアフリーを広げましょう~」を見たからです。この記事には、障がいの内容別に配慮や注意する点が、具体的に書かれていました。
例えば、知的障がいの人には、ゆっくりと話しかける、言葉だけでなく絵や写真で伝える、パニックを起こしたら、落ち着ける場所へ誘導する…といった具合です。
私たちは、障がいのある方を目の前にしても、どのように関わっていいのかわからないことが多いものです。この特集を読んでおくことで、いざという時に、どのように接したらよいのか具体的にイメージすることができることでしょう。こうした知識を共有しておくことは、共生社会の実現のためには必須です。
先ほどの話ですが、電車に乗ってきた盲導犬を見て、乗客は誰一人、騒ぎ立てませんでした。盲導犬に声をかけたり、触ったりしてはいけないことを知っていたからです。知識が活かされた場面でした。でもその後、どのようにしたらいいのかわからず、席を譲った青年以外はただ見守っていました。でも、紙面には、視覚障がいの方のこんなコメントが掲載されていました。「手伝いをお願いすることは少なくても…気持ちは嬉しく思っています」。見守る、気にかけていることでよかったのだと、安堵しました。
盲導犬の賢い行動に、電車の中のみんなが感心し、微笑み合ったことで、私の心までほっと温かくなりました。人を思いやる気持ち、気遣う気持ちに触れると、周囲のみんなが嬉しくなるものなのですね。 共生社会とは、こういう温かさを共有する社会なのではないかと思いました。