文字サイズ
自治体の皆さまへ

(特集)大規模災害への備え 「未来にも伝えたい、あの日のこと」

7/47

埼玉県狭山市

2011年3月11日14時46分発生 東日本大震災

今年1月、御狩場小学校で震災の風化防止と防災意識の向上のためのリモート授業が行われました。講師は東日本大震災が起きた当時、宮城県山元町立中浜小学校で校長を務め、避難した学校の屋根裏倉庫で全校児童と一晩過ごした経験を持つ井上剛(たけし)さんです。この授業は、井上さんのご家族が狭山市にお住まいであることがきっかけで実現しました。
今月は、井上さんから伺った当時の様子や、災害への備えについてお伝えします。

■14時46分、地震発生
中浜小学校(写真(1))は宮城県の南端、福島県との県境に位置する山元町の太平洋側にあります。私がこの学校の校長を務めていた2011年3月11日、のどかな東北の景色が広がる町でいつもの日常を過ごす全校児童59人の小さな学校が大きく揺れました。ほどなくして大津波警報が発令され、高さ約10mの津波が迫っていました。海岸から学校までの距離は約400m。迷っている時間はありません。この建物は2階天井までの高さが約10m、2階建て校舎の屋上であればギリギリしのげると判断し、学校の近くにいた人と児童合わせて90人を避難させました。その後、津波が海岸の堤防を悠々と越えてきましたが、屋上には到達することはありませんでした。
この写真は4つの津波が通過した後のものです(写真(2))。3波は沖合で20mは超えていたでしょう。子どもたちには見せないようにしました。この波は引き潮とぶつかり波頭が砕けたため幸い屋上を超えませんでした。

■長く長く、不安な夜
しかし、周囲は海。孤立した私たちは屋上の屋根裏倉庫(写真(3))で一晩を過ごすことになりました。しかし、ここに食べ物や水、毛布、照明などは保管されていません。ほっとしたのか、3年生の男の子が「校長先生、おなかすいた」と言って抱きついてきました。私は今の状況をきちんと伝えなければいけないと思い、短い言葉でこう言いました「最大の危機は去りました。今夜はここに泊まります。食べ物も、水もありません。とても寒くなります。でも、朝まで頑張ろう。暖かい朝日は必ず昇るから」。
3月でも特に寒かったこの日、夜になると雪が降り始めて気温は氷点下まで下がりました。床はコンクリートの打ちっぱなしで、足元から冷気が伝わってきます。衣装ケースを仮設トイレにするなど、あるものの全てを使って一晩を過ごす工夫をしました。体育館の1階倉庫から非常用毛布50枚が見つかり、2人で1枚を使うことにしました。子どもたちの防災頭巾は、防寒具にもなる優れものでした。
夜中に大きな余震が何度もありました。大人の私たちでも、海の中に孤立している校舎が海底に引きずり込まれてしまうのではないかと不安を感じるほどでした。しかし、子どもたちは泣きたいのを我慢して、懸命にこらえました。大人は「大丈夫だよ」と励ましました。そして、とても長く感じた夜が明け、希望の朝日はちゃんと昇ってくれました(写真(4))。

■つかの間の幸福と次の試練に向けて
6時ごろにヘリコプターが姿を見せました。この写真は、私が撮った中で一番大切にしている写真です(写真(5))。救助にほっとしたと同時に、これから先の困難に備えて準備をする様子の一枚です。毛布やブルーシートは避難所でも不足していると考え、手分けをして持っていくことにしました。
上空から見た山元町の惨状は、今でも忘れられません。「この状況でよく生き残ることができたな」と感じました。

◇御狩場小学校の子どもたちに伝えたかった思いはどのようなことですか。
主に伝えたかったことは、次の4点です。

(1)1分後に起こるかもしれない災害だけでなく、将来、いつ・どこで・どのような災害に遭遇しても、自分の身を守り、周りを救うことのできる力を身に付けてほしい。

(2)「小さな危険に気付く感性を磨く」ことが大事であり、その感性は、日頃の何気ない気付きの積み重ねで磨くことができること。これが大きなトラブルを未然に防ぐ。

(3)防災の基本は、「無駄を良し」とすることから始まる。

(4)学校の先生たちの意識が高まれば、防災の学習は「防災の時間」や「避難訓練」だけでなく、日常の授業や生活の中でも伝えることができる。

これらは全て沿岸部に限った話ではありませんので、内陸で生活する子どもたちにも津波の話をすることは意味があると思っています。

◇その他に内陸の都市にも共通していえる災害の備えなどはありますか。
まず伝えたいのは、「事前の備えは、生命線となる」ということです。しかし、「完璧な備え」はないとも思っています。完璧に備えることが、人間の心に隙をつくってしまうからです。少なくとも東日本大震災の津波には絶対に安全といえる防波堤はありませんでした。
さらに言えることは、それぞれが自分の中の「避難スイッチ」をいかに早く入れることができるかだと思います。これは、津波の場合だけでなく、河川氾濫やその他多くの災害にも共通しています。
いかに自分事として考えられるか、「無駄を良しとして、早めの避難行動」を取れるかです。
京都大学防災研究所の矢守教授の、「空振りは、素振りと思いなさい」という言葉に深く共感します。避難勧告などが出て、避難所に行ったら大きな被害は起こらなかった。その時、多くの人は空振りしたことに不満を持ちますが、空振りではなく素振りしたと考えれば、素振りは練習。この練習をする機会が多いほど本番で命が助かる可能性を上げることにつながります。

※写真については本紙をご参照ください

<この記事についてアンケートにご協力ください。>

〒104-0061 東京都中央区銀座3-4-1 大倉別館ビル5階

市区町村の広報紙をネットやスマホで マイ広報紙

MENU