文化 【特集】新たなスタートへ~鴻池新田会所(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 大阪府東大阪市
- 広報紙名 : 東大阪市政だより 令和7年(2025年)10月号
市内で唯一の重要文化財に指定された建造物がある鴻池新田会所。敷地は国の史跡に指定されている貴重な文化遺産です。耐震補強を含む保存修理工事のため令和5年4月から休館していましたが、工事を終え10月4日(土曜日)に再オープンします。
歴史的な趣を感じながら、ほっと一息つける場所。そんな鴻池新田会所の歴史や魅力を紹介します。
■歴史を知る
▽鴻池新田会所とは
鴻池新田会所は、江戸時代に大坂の豪商であった三代目鴻池善右衛門宗利と息子の宗貞により開発された鴻池新田の経営・管理を行う事務所として1707(宝永4)年に建てられました。鴻池新田会所では、新田の農民から小作料を徴収して幕府へ年貢を納入するほか、新田内の田畑、水路、橋などの維持補修や宗門改帳(現在の住民票にあたるもの)の作成などが行われていました。
当時はさまざまな所で新田が開発され、会所が建てられましたが、現存するものは大阪府内で鴻池新田会所を含め3件のみです。
▼重要文化財はこの5棟
※一般公開している場所は、本屋、米蔵、道具蔵の3棟です。
▽本屋
1707(宝永4)年に建てられ、江戸時代に2度大改修を行っています。土間、居室部、座敷部からなり、現在の状態は1850年代の様子を再現しています。
▽道具蔵
農工具の保管場所として活用されていました。
▽米蔵
米を納めるための蔵で、当時は会所を運営するうえで重要な建物でした。
▽文書蔵
蔵の中には新田の開発や経営に関する文書が収められていました。
▽屋敷蔵
家財などを収納する蔵です。平成の修理で1746(延享3)年に建てられたことがわかりました。
各建物で発見された棟札も国の重要文化財に指定されています。
■歴史を守る
今回の保存修理工事で行われた工事の一部を紹介します。
▽本屋の耐震補強工事
部屋の一部に鉄骨を設置しましたが、本屋の中に入っても一目見ただけでは鉄骨の存在を認識できません。土間や座敷の雰囲気を変えないよう、一般的に公開されない部屋や二階、西や北の下屋部分、押入などに鉄骨を設置しました。
重要文化財である建物をできる限り解体することなく鉄骨を設置するため、各場所の寸法を綿密に測りながら、限られた搬入口から入るように短い鉄骨を製作し、現場でつなぎ合わせました。また、建物を傷つけることがないよう、搬入や組立はほぼ手作業で行われました。
▽屋敷蔵の揚屋工事
屋敷蔵は地盤沈下により建物の東北隅が約19センチメートル下がっており、大きく傾いていました。そのため、建物全体を50センチメートルほど持ち上げる揚屋工事を行い、水平になるように基礎石と建物の間に木材を挟み込みました。
▼インタビュー
鴻池新田会所の工事の設計・施工監理を行った公益財団法人 文化財建造物保存技術協会の方に、今回の工事についてお話を伺いました。
▽皆さんに見学していただくために、安全の確保が第一です。
鴻池新田会所は昭和62年から平成8年にかけて大規模な保存修理工事を実施しています。細かなメンテナンス修理は都度行っていますが、前回の修理からあまり時間が経っていないため、今回の工事前も建物は比較的健全な状態でした。
ただ、敷地内の建物は一部を除いて一般公開されています。多くの方が中に入って見学される施設であり、突発的な災害時にも来館者の安全性が確保されていなくてはなりません。そのため、今回の工事では鉄骨や合板を用いて本屋、米蔵、道具蔵の耐震補強を実施しました。令和6年に起こった能登半島地震では補強を行っていなかった重要文化財の建物が屋根に押しつぶされるように倒壊しており、耐震補強工事の重要性を実感しています。
公益財団法人 文化財建造物保存技術協会
金田 直子さん
▽「今あるもの」は全て大切にします。
文化財建造物の工事を行ううえで大切なことが2つあります。1つ目は建物そのものの雰囲気や形を変えないこと。2つ目は、現存するものはそのまま残すことです。建物ひとつひとつの部材には当時の情報が詰まっています。むやみに切ったり形を変えたりせず、施工上やむを得ず切断が必要となった箇所は、新しい木材を代わりに取り付け、古い部材は大切に保管します。
しかし、現存するものを残しながらの工事は想像以上に大変な作業です。例えば、基礎石の上に建っている建物に、補強するための柱を立てる場合、柱の底を石の凹凸に合わせて削り、ぴったりと合うようにします。もともとある石の形は変えません。このように、現状を可能な限り維持するためにさまざまな工夫と高度な技術のもと工事を行いました。
公益財団法人 文化財建造物保存技術協会
鵜原 正樹さん
問合せ先:文化財課
【電話】06-4309-3283【FAX】06-4309-3823
