■紀州藩、「わに」を探す
明和7(1770)年1月29日、紀州藩は二分口(にぶくち)役所(やくしょ)を通して、尾鷲組を含めた奥熊野四組に対し、「わに」という魚を捕とらえ次第、塩〆(しおじめ)にして送ってほしいと通達しました。
これを聞いた皆さんの中には、神話の「因幡(いなば)の素兎(しろうさぎ)」に登場する鰐(わに)が鮫(さめ)であるとする説を思い浮かべ、「紀州藩もサメを探していたのだろう」と思われた人もいるかと思います。
ところが、通達に添えられた「わにと申魚(もうすさかな)」と題した特徴書きによると、「形はイモリの様」「腹は蛇腹(じゃばら)」「四足で鷹(たか)の爪のような爪をもつ」などと記されています。つまり、藩が探し求めていたのは、間違いなく爬虫類(はちゅうるい)のワニだったのです。これに対して尾鷲組は、「漁師らに聞いても、ワニを見た者はいなかった」と回答しました。
ところが藩は、6月に再度同じ通達を出しました。
今度は、商人や紀伊国外の縁者(えんじゃ)などにも聞き取るよう指示がなされ、さらには褒美(ほうび)として銀も与えるというのです。
これに対して尾鷲組は、なんと「ワニは漁師が稀(まれ)に沖合で見かけるが、その時漁師はすべてを捨て置いて逃げるため、その姿を完全に見た者はいない」として、一度目とは異なる回答をしたのです。
これ以上史料が残っていないため、藩がワニを求めた理由や、尾鷲の漁師が見たワニの正体、そして事の顛末(てんまつ)も分かりません。
謎多き紀州藩の「わに」捜索、皆さんはどう考えますか?
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