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市長コラム Vol.133(2023.8.1)

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三重県津市

■姿を変える養鰻(ようまん)池
津市長 前葉 泰幸

大正から昭和にかけて、津市の伊勢湾岸では養鰻が盛んに行われていました。大正10(1921)年における旧津市の水産物産出額は鰻が3割を占める第1位となり、戦前戦後のピーク時には京都、大阪への一大供給地として、沿岸部の低湿地に水田などを活用した多くの路地池が造られました。
三重県は、静岡・愛知とともに養鰻がいち早く導入された先進養鰻産地として長らく国内生産量9割のシェアを誇っていましたが、昭和50年代に入ると配合飼料によるハウス加温式養鰻の普及に伴い生産地が地方に分散し、四国、九州などの新興産地にその座を譲り渡すことになります。成鰻の輸入が増加の一途をたどったことも要因となり、収益が低下した養鰻業者の廃業が相次ぎました。

□産業用地・競艇場などに転用された養鰻池
津市もその例外ではなく、養鰻池が次々と宅地化されるなどしてその姿を変えていくなか、河芸町上野地内、田中川河口から南に広がる池の一角では、平成に入っても養鰻経営を続ける池主のビニールハウスが立ち並んでいました。
平成12(2000)年に最後の経営者が廃業を決め役目を終えた上野の養鰻池は、他用途への転用がかなわず、埋め立てて土地を造成するには莫大な費用がかかることから、所有者が活用の方策を見出せないまま現在に至っています。近隣の住民からは、ユスリカの発生による生活環境への影響もあり、池をこのままの状態にしておくことへの懸念が示されていました。

□残土管理の強化を図る県の取り組み
この遊休池を公共工事で発生する残土、すなわち建設発生土の受け入れ先として活用するアイデアが持ち上がったのは令和2(2020)年のことです。
同年4月、三重県は「建設副産物処理基準」を改定し、公共事業の建設発生土を発注者の責任で適正に処理することに改めました。それ以前は、受注者が自らの責任と費用で残土を処分することとされ、発注者である津市は残土処分場までの運搬費のみを支払うにとどまり、処分費を負担することはありませんでした。
津市は平成25年から香良洲高台防災公園の造成に公共工事の建設発生土を無料で受け入れていたことから、改定後もしばらくの間、残土の処理費用は抑えられていました。しかし、令和4年度に香良洲高台の受け入れが終了すると、津市発注の公共工事は、新たに残土の処分費が加算されるようになったばかりか、処分場を求め遠隔地に持ち込まざるを得ない残土の運搬費まで跳ね上がり、予算内での事業の進捗(しんちょく)に影響が及び始めました。

□香良洲高台から河芸養鰻池へ
建設発生土の受け入れ先を津市内に確保できれば、公共工事のコストが下がり、限りある予算でより多くの事業を実施できます。その候補地として浮上したのがこの旧養鰻池です。
7万平方メートルの広大な池の東側では、現在、高潮対策としての海岸堤防が整備中です。その堤防と同じ6mの高さまで土を積み上げる場合、津市域内の公共事業から排出される建設発生土の6年分にあたる51.5万立方メートルの受け入れが可能です。
上野の旧養鰻池は国道23号から500mと交通アクセスが良く、地籍調査が昨年完了したばかりで土地の境界が明確なことから、事業の円滑化とコスト縮減効果も期待できます。池の買収費用に加え、搬入された土を造成し、排水処理や安全対策を施す経費が必要になりますが、受け入れ手数料を充てることで独立採算事業として成り立つ見通しがつきました。池主からは、公共的な用途であれば協力する意向が示されています。

□受け入れ地造成・実質コストゼロ
いよいよ、池を新しい姿に変え土地の価値を高める事業が動き出します。今後、市議会に予算を諮っていくこととなりますが、次のような手順で事業を進めることを想定しています。
令和6年度からの受け入れ開始に向け、まず、7名の地権者からの用地買収交渉を進めるとともに、予定地の測量設計にとりかかります。アクセス道路となる市道国道大蔵園海岸線の一部狭隘(あい)部分100mについては年度内に幅員6.7mまで拡幅することとします。津市手数料徴収条例を改正し、1立方メートル当たり2,000円の処理料を徴収できるようにすれば、総事業費約10億円を津市の財政負担なく賄うことができます。
近接する大蔵園の住環境の保全には万全を期します。造成予定地に降る雨水は、新設する調整池を経てこれまで通り田中川に排水し、大蔵園側の法(のり)勾配は1:1.8(29度)と緩やかにします。大蔵園と造成予定地の間に新設する幅員6mの道路は緩衝帯としての機能のみならず、大蔵園から河芸町島崎町線へのアプローチを容易にする新ルートとして地域の利便性を高めます。

□令和時代の池の価値
明治、大正の時代に、伊勢湾に面した塩害田や荒れ地が養魚場へと姿を変え養鰻業の隆盛をもたらしたように、上野の養鰻池は建設発生土の受け入れ先としての新しい使命を帯び、地権者、地元住民、そして津市に大きな経済的価値をもたらす土地となることが期待されています。令和時代に再び生まれ変わる養鰻池の活用事業を着実に実行に移してまいります。

ケーブルテレビ123chと津市ホームページでは、前葉市長がこのテーマについて語ります
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