■配慮する上で大切なこと
私が以前勤務していた職場では、会議室などの施設貸し出しに関わる業務をしており、老若男女問わず多くの利用がありました。その中で私は、障がいのある人との関わりについて考えさせられる機会が何度かありました。
ある日、聴覚に障がいのある人が初めて予約手続きに来ました。当時の私は、手話はできず筆談の知識もなかったため、「うまくコミュニケーションが取れるだろうか…」と緊張し不安になってしまいました。筆談を駆使して対応しようと試みましたが、普段は円滑に話していた内容でさえ、初対面の人との筆談となるとどのように伝えればよいのか困惑しました。すると、こちらの気持ちが伝わったのか、その人は最低限の単語で伝えたい内容を手早く簡潔にまとめ、「こんな感じで大丈夫です」と筆談の要領を教えてくれました。私は、意思疎通ができるように自分が何とかしなければと必死でしたが、相手から優しく歩み寄ってくれたことで、緊張が和らぎ、落ち着いてやり取りができるようになりました。その後も定期的に利用申請があり、その人とは笑顔でやり取りし合える関係を築くことができました。このことがあってから私は、新規の来客があった時でも、障がいの有無に関わらず心が通じる関係を築きたいという前向きな気持ちを持てるようになりました。
また、施設の予約開始日に2つの団体の希望日時が重複したことがありました。普段なら抽選を行う流れですが、一方の団体の人が車いす利用者だったため、体が不自由にも関わらず朝早くから並んで抽選に外れてしまっては気の毒だと思ったのか、もう一方の団体の人から「相手に譲ります」との申し出がありました。しかし、車いすの人は、「配慮して譲ってくれる気持ちは大変ありがたいのですが、相手も同様に朝早くから並んでいたのだから公平に取り扱ってください。私たちは時に介助を必要としますが、常に優先してほしいわけではないのですよ」と話されました。「それでしたら公平に抽選にしましょう」と互いに納得をして、その場で抽選を行うことになり、抽選の結果に関わらずどちらも満足したような表情でした。
このやり取りを近くで見ていた私は、温かい気持ちになると同時に大切なことに気付かされました。その場で相手に譲ると申し出た人は、おそらく普段から体が不自由な人への配慮ができる人であり、私も日頃からそのような行動ができる人になりたいと思いました。一方で、譲られた車いすの人の、相手の気遣いに感謝を示しつつも公平に扱ってほしいと率直に話す姿から、自分の気持ちをきちんと伝えようという思いを感じられました。障がいのある人への配慮は大切ですが、相手の求めていることにかなっているかどうか、対話を通じて理解し合うことが重要だと気付かされました。
これらの経験から、「配慮しなければいけない」と意識するあまりに配慮する側とされる側との思いが互いに一方通行になったり、過剰な配慮になったりしていないか気を付けなければならないと考えさせられました。障がいのある人の声をしっかりと聴き、自分に何ができるのかを考えることで、共に生きる社会の実現につなげていきたいと思います。
(30代、男性)
問い合わせ:人権課
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