■消防現場が生み出した新しい救急サービス
津市長 前葉 泰幸
□増え続ける救急出動
津市における令和5年の救急出動件数は1万8,110件を数え、2年連続で過去最多を更新しました。搬送された方の62%が65歳以上の高齢者であり、今後、高齢化の一層の進展により救急需要はさらに高まることが予想されます。
□機動的に待機場所を変更する救急車M.O.A.
津市消防は、特に出動頻度が高い中消防署に救急車を2台配置するなどの対策を講じてきましたが、救急要請が輻輳(ふくそう)した場合は隣の消防署から駆け付けることになり現場到着時間の遅れが懸念されます。そこで、昨年12月、市域の中心に位置する久居消防署を拠点に救急空白地域に移動して更なる出動要請に備える「機動的救急隊(M.O.A.)」を創設しました。
□「一秒でも早く駆け付けたい」
県内初、全国的にも大都市数カ所での事例しかない機動的救急隊のアイデアを提案したのは、子育て中の救急救命士です。出産後、日勤で救急統計の管理や救急隊員の再教育などを担当するこの消防職員は、昨年春、データを分析する過程で、救急出動の51%が朝8時から夕方5時までの9時間に集中している点に着目しました。東京消防庁が東京駅に配備する救急車を終電後は眠らないまち新宿駅近くに移動させ救急対応の強化を図っていることにヒントを得て、県下で最も広い市域を管轄する津市で救急需要が多くなる日中に救急隊の機動的な移動配備を行えば、現場到着時間を効果的に短縮できるのではないかと考えたのです。
□スキルと経験を生かす新しい働き方
救急隊は3人で構成されます。消防職員は職場に24時間連続で配備され「日勤夜勤」の隔日勤務体系のもとで働いていることから、新たに1台の救急車を24時間運用するには交代要員を含め9~10人の人員が必要です。総員354人の消防職員の中で新たな人員の確保は難しいものの、救急車の運用を平日の日中に限定し、消防署の職員と消防本部の日勤の職員とで救急隊を構成すれば増員することなく編成できます。即座に試験運用が開始され、出動件数が増加する昨年12月から本格運用が始まりました。
M.O.A.の隊長となったのは発案者の救急救命士です。育児などの理由で24時間勤務が困難であっても任務に就くことが可能な新しい救急サービスは、彼女の後に続く職員たちの働き方の選択肢と可能性を広げ、この春から定年が引き上がる職員の日勤希望者が救急の現場でその豊富な経験を生かす道をも開いたことになります。
新しい働き方を選択した職員を乗せたM.O.A.専用救急車は、美大出身の消防職員がデザインしたハヤブサのエンブレムとブルーのラインをまとい、市内各地を走行しながら救急需要のひっ迫度合いを市民に知らせ注意を喚起しています。
□救急車到着前に応急手当を行う消防団員FAM
昨年11月に創設した消防団の「事業所機能別団員(FAM)」も、年々増加する救急需要と消防団員の減少という課題解決に向けた消防の若手職員の取り組みから生まれました。
消防団員には、居住地近くの火事に出動し消火にあたる「基本団員」のほかに、一部の機能、時間帯に特定して活動する「機能別団員」という制度があり、津市では消防団OBと学生の方がその活動を担っています。消防団を担当する職員2人は、事業所の従業員の方々にも機能別団員になっていただき、職場近くで一刻を争う救急事案が発生し救急車がすぐに到着できない場合に、いち早く現場に駆け付け、応急手当を実施して救命率の向上を図る施策を練り上げました。
FAMの出動範囲は徒歩で5分、走って3分の半径おおむね300メートル。活動は就業時間中に限られます。事業所近隣の火災発生時の後方支援や大規模災害時の避難誘導や応急救護支援活動にも当たっていただくことから、社員の活動は企業の社会貢献にも繋(つな)がります。
その第1弾として津中央郵便局がご賛同くださり、昨年11月、内勤の14人がFAMとして津市消防団に入団されました。
□市民の命と安全を守る
今年の消防出初式は、元日の能登半島地震により災害への備えの重要性が再認識され、例年に増して緊張感をもって挙行されました。式典後の訓練披露に登場したのは、FAMに任命された3人とM.O.A.の隊員です。心停止症例を想定し、本年3月からの出動に備える3人が落ち着いてAEDを用いた心肺蘇生措置を行い、到着した救急隊に応急手当の内容を正確に引き継ぐと、救急救命士の指示を受け、隊員が迅速に搬送体制を整えていきます。真剣に命と向き合う頼もしい様子は被災地で救急救命活動に従事する消防の姿に重なり胸に迫るものがありました。
三重県の支援先である石川県輪島市などの被災地には津市から、緊急消防援助隊、避難所や給水活動、下水道施設復旧の対応職員、応急危険度判定士などが次々と支援に入っています。被災地の復興を祈念するとともに、職員が一丸となって地震や台風などの自然災害と火災や急病などあらゆる緊急事態への対応力を高め、市民の皆さまの救命と安全確保に努めてまいります。
ケーブルテレビ123chと津市ホームページでは、前葉市長がこのテーマについて語ります
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