■大規模災害発生時にまず行政がすべきこと
津市長 前葉 泰幸
能登半島地震で被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。被災地へは、津市から消防、給水、避難所運営、被災建築物応急危険度判定、下水道など、1月中だけで84人の職員を派遣しました。今後も必要な支援を続けてまいります。
□支援を受け入れるために必要なこと
甚大な被害により交通網が寸断され、現場にたどり着くまで難渋を極めた職員たちからの報告は南海トラフ地震発生時に通じる課題を浮き彫りにしました。
何より重要なのは、まち全体が壊滅的な被害を受けた場合でも行政機能を存続させ、支援の受け入れ体制を迅速に構築することです。そこで、1月末に開催した津市防災会議で「津市地域防災計画」に能登半島地震の課題を踏まえた修正を加えることを決定し、来年度予算案に受援に重点を置いた訓練を実施し耐震化を促進する経費を盛り込みました。
□課題1 緊急車両の通行確保
緊急消防援助隊三重県大隊の中核をなす津市消防は、地震発生直後から出動準備体制をとり、消防庁長官からの出動指示を受け、10日午前2時、6隊21人が石川県輪島市に向けて出発しました。
道中、輪島消防署での救急体制ひっ迫の報を受け先行した救急小隊は午後7時に現地に入ると同時に避難所の急病人などの救急搬送に従事し、後着した大型特殊車両の救助・消火小隊は11日から輪島朝市の大規模火災現場などで人命検索や安否不明者の捜索活動を実施するなど、2次隊、3次隊と入れ替わりながら19日まで活動しました。
隊員たちが最ももどかしく感じたのは、穴水町から輪島市までの19km区間で大渋滞に巻き込まれ、到着まで3時間を要したことでした。唯一のアクセスルートである県道は、沿道建築物の倒壊や土砂崩れなどで道路の片側がつぶれている箇所がいくつもあり、被災地に向かう多くの緊急車両と避難する対向車が交錯したことがその原因です。
津市は南北に高速道路と国道23号と中勢バイパスが走り、東西に3本の国道がつながります。受援の際には複数の進出ルートを設定することが可能ですが、大規模災害発生時には道路の被災状況に応じた一方通行などの交通規制や緊急車両を優先通行させる措置をどこでいつ講ずるのかを事前にさらに詳しく決めておかねば、混乱する現場からの限定的な情報をもとに適切な対応をとることは困難です。
そこで、道路管理者(国・県・市)、交通規制当局(県警)と、部隊や車両のオペレーションを行う消防・警察・自衛隊とにご参集願い、緊急車両が円滑に通行できるよう道路管理と交通規制の手法を時系列に沿ったタイムライン方式で定める「災害緊急車両通行ルート確保検証」を実施することとし、5月に図上訓練を行ったうえで、11月の総合防災訓練で実行する計画です。
□課題2 断水への対応
給水車の応援派遣の順番は輪番表で定められています。1月2日、能登半島に向け第1次隊が出発し、三重県は主に七尾市において応急給水活動を続けていますが、14日に現地入りした津市の給水車が指定された注水ポイントは七尾港に接岸した海上保安庁の巡視船でした。
災害に備え、津市は市民への給水用に小学校の受水槽の下部に5つの蛇口を取り付け、給水車は配水池での補給と受水槽への給水に専念する効率的な運用を企図していますが、今後は、配水池が被災し、給水船の応援を求める事態にも備えることとします。着岸地点や給水車進入路の設定などの判断や段取りも訓練内容に織り込みます。
能登半島の断水が広範囲で起き長期化している理由として老朽化が進む水道管の耐震化が進んでいなかったことなどが挙げられています。津市における水道管の耐震化率は65.8%。今年度からの5年間で60億円を投じる計画のもと耐震管への布設替えを進めており、来年度予算案の老朽管更新事業は前年度比88.5%増の18.5億円としました。
□課題3 建築物の耐震化
被災地で応急危険度判定の業務に携わった職員が帰庁して口々に訴えるのが、倒壊した建築物の割合の大きさです。住宅の耐震化率は輪島市で46%と耐震改修があまり進んでいなかったことが被害の拡大に影響したものと考えられます。
津市の耐震化率は85.5%。三重県全体の84.9%を上回るものの、全国平均の87%には達していません。津市では昭和56年5月31日以前に建てられた木造住宅の耐震診断を無料で行っており、耐震補強工事には最高100万円の補助金を支給する制度もあります。来年度予算案では木造住宅の耐震化を促進する補助金等を今年度より1,507万円増額し、8,677万円としました。
□初動対応の重要性
大規模災害の発生時にはあらかじめ定められた制度や取り決めが自動的に発動され、緊急消防援助隊、警察災害派遣隊、自衛隊などの即応部隊が全国から次々と投入されます。
支援を受ける側の災害対策本部が、災害の全体像をいち早く把握し、派遣される支援部隊を必要な場所に集中的に投じることが、多くの命を救い、被害を最小限にとどめることにつながります。プッシュ型で送り込まれてくる支援物資を避難所まで確実に届けることで、身を寄せた被災者の不安が和らぎ、心身の消耗が軽減されます。
南海トラフ地震は、当地にも大きな被害をもたらすことが危惧されています。大規模災害への備えが着実なものとなるよう準備を整え訓練を重ね、災害対策本部長としての務めを果たしてまいります。
ケーブルテレビ123chと津市ホームページでは、前葉市長がこのテーマについて語ります
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