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市長コラム Vol.142(2024.5.1)

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三重県津市

■新しくなった救急車の受け入れ体制
津市長 前葉 泰幸

□戦前の医療を担った津の市立病院
明治4(1871)年に津観音境内に設置された官設治療所が前身となり、明治9(1876)年、三重県公立病院が設立されました。2年後、塔世橋のたもとに新院舎が落成し、明治23(1890)年から20年間、私立今井病院として貸与された後、市の公立病院経営に難色を示した医師会との調整を経て、明治43(1910)年に津市に移管されることとなりました。
大正時代、津市立病院の外来患者数は年間6~7万人、入院患者数は2~3万人と記録されており、昭和4(1929)年に鉄筋コンクリート造りの2階建て本館を建設するなど、津市は34年間にわたって病院を経営してきました。
昭和19(1944)年、戦時に際して栄町に三重県立医学専門学校が新設されたことに伴い、津市立病院は同附属病院として県に移管され、さらに、昭和48(1973)年からは前年に設置された三重大学医学部の附属病院(三重大病院)として国に移管されて現在に至ります。

□戦後に誕生した民間病院の発展
戦後、津市では地域に根差したまちの診療所が高度な専門性と幅広い診療科を備えた有床の病院に発展するなどして、民間病院が次々と設立されます。昭和30年代に遠山病院、岩崎病院、武内病院、永井病院が、昭和50年代には吉田クリニック、津生協病院、大門病院、榊原温泉病院が開設されました。これにより、津市は三重大病院と国立病院機構が運営する三重中央医療センターとともに、地域の中核となる民間病院が数多く存在する、医療体制が充実した都市となりました。

□民間病院主力の津市の救急受け入れ体制
日本が高齢化社会へと転じた昭和45年以降、脳卒中や心筋梗塞など、緊急を要する救急搬送の増加が目立ってきたことから、国はそれまでの救急医療体制を見直し、昭和52(1977)年、新たに初期、二次、三次に分類する系統的な救急医療制度を整備しました。
津地区では、昭和55年より民間の主力2~5病院で「病院群輪番体制」を構築し、休日夜間の手術や入院が必要な二次救急患者の搬送を交替で受け入れ、市町村合併後の平成19年以降は、民間病院と三重中央医療センター合わせて11病院体制で内科・外科の1~2病院と整形外科1病院の当番病院が二次救急を担い、三重大病院が心臓病や脳卒中、多発外傷など重症の三次救急患者を受け入れる体制が整いました。

□輪番体制の課題
県内他市の輪番体制は、病床の数が少なくとも200~400、多くはそれ以上の病床を持つ大規模な総合病院で編成され、ほぼ全ての救急事案への対応が可能です。
これに対し、津市では、三重中央医療センターを除き、数十床~200床未満の中小の病院が交替で輪番を受け持つことから、規模的に常勤医師だけで夜間休日の救急対応までカバーするには無理があります。輪番時間帯は医師の派遣に頼らざるを得ず、救急搬送が重なると処置中、専門外などの理由で収容が不可能になることは避けられません。
合併後の輪番体制がスタートしたタイミングで日本はついに超高齢社会に突入し、その後、津市の救急出動件数は増加の一途をたどります。コロナ以前の段階で既に体制発足時より5割近く増加しており、搬送時の病院照会回数の多さ、現場滞在時間の長さともに全国平均、県平均を大きく上回る深刻な状況が長く続いていました。
これを受け、循環器疾患、緊急開腹手術への対応が強化され、照会回数が多い土曜午後の補完体制が敷かれるなど課題解決に向けた取り組みが進められたことに加え、24時間体制で医師などの専門スタッフが対応する「救急・健康相談ダイヤル24」をご利用になる市民が増えたことも寄与して、「動き出さない救急車」問題が改善傾向にあることが数字的にもはっきりと表れるようになってきました。その効果が帳消しになってしまったのが新型コロナウイルス感染症の流行です。

□新型コロナ感染症を境に激変した医療環境
令和2年と3年は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などによる外出の抑制や受診控えの影響もあり、救急出動件数は約1割減ったものの、感染者やその疑いがある方の受け入れ病院が限られたこと、病院でのクラスター発生により受け入れ停止期間があったことなどから、救急搬送時の照会回数、現場滞在時間がともに悪化しました。令和4年は社会経済活動の再開により救急出動件数が1万7,589件と令和元年との比較で1割増え、受け入れにさらに時間を要しています。
令和5年は、救急出動件数が1万8,110件と過去最多を記録したにもかかわらず、感染症がやや沈静化したことで搬送時の照会回数、現場滞在時間は減少に転じました。しかしながら、受け入れ困難な事例がコロナ以前よりも増加していることに変わりはなく、限られたスタッフでぎりぎりの対応を続けてきた輪番病院からは、今後も体制を維持していくのは容易ではないとの声が聞かれるようになっていました。今年4月から働き方改革による医師の時間外勤務時間や連続勤務の新たな規制が導入されたことで、状況はさらに厳しくなることが予想されます。

□三重大病院の輪番参画
そこに、三重大病院から新しい提案がなされました。昨年6月より週に1回のペースで輪番に加わった三重大病院が、令和6年度から本格的に二次救急に参入し、全ての曜日において輪番病院での受け入れが困難な場合にバックアップするかたちで受け入れの強化を図る改革案です。整形外科のみの輪番を廃止して体制を一本化することにより、新体制の運営に要する経費も輪番病院への補助金約2億円と、昨年度とほぼ同水準に収まる画期的な仕組みです。
この新たな二次救急輪番体制は、三重大病院が市民病院を持たない県都の拠点病院として急性期医療を公的に支える姿勢を示してくださったことにより実現したものです。救急医療に携わる若手医師のスキル向上にもつながり、研修先として三重大病院の魅力がより高まる効果も期待されます。
現場に急行した救急車が速やかに病院に向けて発車する光景が日常となることを目指し、医療に関わる方々との連携を密に、今後も円滑な救急搬送体制の確保に努めてまいります。

ケーブルテレビ123chと津市ホームページでは、前葉市長がこのテーマについて語ります
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