伊勢平野を見渡せる標高約200メートルの人里離れた集落、現在10戸しかない菰野町で一番小さな区が切畑区です。
そんな切畑区に令和6年1月、名古屋市から移住した後藤あかねさん。
なぜ切畑区に移り住み、どんな生活を送っているのかをお聞きしました。
里山に近い切畑区へ移住してきた後藤さん。
移住先の空き家の土地は150坪あり、今後は裏山の畑の整備にも取りかかりたいそう。
■とある食材を契機に移住を決意
切畑区に移住してきた後藤あかねさんは、生まれも育ちも名古屋市で現在までどちらかというと都会的な生活を送っていました。切畑区に移住するまでは海外への輸出関連の会社を経営し、とにかく仕事に追われて忙しさしかなかったそうです。「30代前半までは通関士の資格を生かし商社で働いていましたが、自分のペースで仕事ができると思い34歳で起業しました。ですが、そこからさらに忙しくなりました。社員を雇う経営者として仕事の手を止められず、東京、大阪はもちろん、世界中を休みなく飛び回っていました」と当時を振り返ります。そんな仕事中心の生活だった後藤さんの転機となったのはひとつの食材との出会いでした。ある時、山形県産の天然の舞茸をもらい、口にしてみたことで価値観が一変。「それまではコンビニのお弁当やおにぎりを少しの隙間時間に食べるくらいの食生活だったんです。それがふとした天然の食材との出会いで変わりました。口にした瞬間、体が元気になった気がしたんです。人間と自然は切り離せないものだと実感し、少しずつ生活をシフトしていきました」。このきっかけから名古屋市内の築100年の古民家に引っ越し、野草採集や味噌づくりを趣味にするようになりました。しかし、仕事で「稼ぐ」よりも人として「生きる」ことに重点を置きたいと強く思うようになり、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に移住を決意しました。
■切畑区だから感じられること
移住を決めてからは〈野草が採れる・井戸水で生活できる・薪ストーブが使える〉の3点を条件に長野県など山に近い地域への移住を検討しはじめました。「防災の面から有事の際、インフラに困らないよう自分の土地で生活を完結させたい想いが強くありました。移住先として切畑区を選んだ決め手は区長さんをはじめとする人との繋がりでしたね」。移住を検討している中で切畑区長から空き家の紹介を受けたこともあり、切畑区への移住を決めました。それからは切畑区に程近い田光区や小島区の職人に繋がりができ、大工仕事や屋根修理を頼めたそうです。「はじめは床の張り替えや雨漏りの修理などからはじまり、頼める人脈ができたことから板金や水道工事などもお願いできました。工事が終わった今でも皆さんと野菜の物々交換は続いています」と後藤さんは嬉しそうに語りました。趣味である野草採集の知識を生かして野草のエキスを抽出して化粧水や虫よけスプレー、咳止めシロップなどを作り、それらと地元野菜とを物々交換することもあるそうです。
「都会の人は田舎暮らしに憧れる。田舎の人は都会暮らしに憧れる。そういったお互いの憧れはあるとは思いますが、切畑区や菰野町の皆さんは古きよき日本人のDNAを継承しているように感じます。そんな無形の価値を汚すことなく、守っているからこそ私みたいな人でも受け入れてくれているのだと実感しています」と現在を語りました。
「稼ぐ」ことが人生の全てではない。
人として「生きる」ことを優先したい。
■自然あふれる菰野の山は宝の山
現在の暮らしを始めてもうすぐ一年となる後藤さん。名古屋市での生活と比べて不自由や違和感がないか尋ねてみたところ、これまでの生活を振り返りながらこのように答えてくれました。「どれだけ裕福な暮らしをしてブランドを身にまとい、高級飲食店に行こうとも幸せなのはその場だけ。移住してきた私からすれば、菰野町に既にある素晴らしいポテンシャルに気づけていないことがもったいないように感じます。私にとって野草や自然があふれる菰野の山は宝の山。菰野町に行かなければ味わえない魅力がたくさんありますから」と、伝えてくれました。「私はまだ毎日ホームステイ先にいるような感覚になることもあります。それくらいこれまでの生活と文化の違いも感じますが、本当に切畑区は私の理想どおりの生活を実現してくれています」と満足そうに語りました。
▽名古屋市から切畑区へ移住
後藤(ごとう)あかね さん
切畑
切畑区は私にとって最高の移住先です。私のような移住希望者も都市圏にはたくさんいます。ミルクロードや国道306号から西側を眺めると平野から山脈が連なる景色が見えます。この景色は、中部地域ではなかなか見れるものではありません。そんなところに住民の皆さんが気づかないような菰野町のポテンシャルがあるように感じます。菰野町民一人一人が豊かになっていく、この地域でそんな価値を創出できるようになれればと思うので、私も切畑区でできることからやっていくつもりです。
▽切畑区 区長
大橋(おおはし)仁視(ひとみ)さん
切畑
後藤さんは、切畑区に新しい風を吹き込んでくれました。これまで永く都会で暮らしていたはずなのに、田舎での暮らしに本当に抵抗なく入ってきてもらっていて、こちらが逆に驚いているほどです。草刈りや神社の整備など区の仕事にも積極的に参加してもらっています。区民も拒否することなく後藤さんを受け入れて、私たちと同じように切畑区に対する愛着をもった区民としてお互いに助け合って生活しています。
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