■先人の想いを記録に残す~供養塔の拓本~
漁獲した魚介類をただ利用するだけではなく、命をいただいた生きものへの感謝を忘れず、丁重に慰霊する慣習は、日本の漁村に受け継がれてきた誇るべき文化です。それがひとつの形を成したものが、沿岸地域に立つ供養塔です。
海の博物館では、県内各地に残る魚介類の供養塔から拓本をとって保存しています(その他、大津波による死者の供養塔などの拓本もあります)。石造物は年を経るとともに風化して刻字が見づらくなり、海浜部では潮風によってその傾向が特に顕著なので、30年前に記録しておいたことは、非常に意義のある事業であったと思います。
例えば鳥羽市内では、小浜地区の済度院に5基の石塔があります。「広報とば」の2023年4月号でも紹介した通り、「鰡(ぼら)」「いな」の供養塔からは、地域経済を潤した往時のボラ漁の隆盛がうかがわれますし、タイ釣りなどの餌になった「ゆ虫(むし)」を弔う供養塔を見ると、釣り餌にも慰霊の意を示した先人たちに感嘆せざるを得ません。周辺地域にもクジラやブリ、マグロ、アコヤガイ(真珠貝)などの供養塔が点在していますし、建立されたけれど、現在では存在を忘れられてしまったものも多数あるはずです。
自然との共生、資源の持続的な利用が声高に叫ばれるのは、それが危機的状況にある裏返しとも言えます。かけがえのない海を守っていくためには、自然への感謝と敬意を忘れないことが重要です。海の博物館では、そのような先人からのメッセージを再認識させてもらえる多くの記録を、永く受け継いでいきます。
※「「いな」の供養塔」の「いな」は環境依存文字のため、かなに置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
※「ゆ虫(むし)」の「ゆ」は環境依存文字のため、かなに置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
問合せ:市立海の博物館
【電話】32-6006
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