■STORY of OLIMPIAN アテネ五輪銅メダリストレスリング・井上謙二(自衛隊)
自衛隊体育学校レスリング班・監督京丹後市出身でアテネ五輪レスリング60kg級で銅メダル獲得、現在は自衛隊体育学校でレスリング班の監督を務める井上さんに話を伺いました。
▽井上謙二 Kenji Inoue
1976年11月5日生まれ。中学1年からレスリングを始め、網野高校、日本大学では全国大会で優勝を重ねるなど輝かしい成績を収めた。中学生の時からの夢であるオリンピック出場を目指し自衛隊へ。ケガなどを乗り越え2004年のアテネ五輪では男子フリースタイル60kg級で銅メダルを獲得し、同年、京丹後市スポーツ特別栄誉賞受賞。2016年から自衛隊レスリング班で監督を務め、2021年の東京五輪ではフリースタイル日本代表の監督として日本勢のメダル獲得に貢献、現在も選手育成に尽力している。
▽出会いは兄の部活動―
「6歳上の兄が高校の部活動で始めて、レスリングというスポーツを知りました。1988年の秋、高校3年になった兄が京都国体に出場し、私は小学校を休み、親や親戚と間人の体育館に応援に行きました。準決勝、残り数秒というところで兄が投げ技を決めて劇的な逆転勝利。その瞬間を目の当たりにして雷に打たれたような感覚でした。その試合を見て私もレスリングがやりたくなり、父が当時網野高校レスリング部の顧問だった三村先生にお願いして、私が中学1年の時から体験入部ということで練習に参加できることになりました」
▽やりたいが夢に変わる―
「中学2年になると、正式に網野レスリング教室が立ち上がり、初めて後輩もできました。ケガなどで公式戦に出場したのは中学3年になってからですが、西日本選手権大会では準優勝、他に全国中学生選手権大会、関西ジュニア選手権大会に出場しました。大会で2度負けた相手が中学のチャンピオンで、中学生最後の大会の会場で、その選手のお父さんから「息子が接戦したのは君とやった時だけだった」と言われ、レスリングを続けていく励みになりました。さらにモチベーションがあがったのが、その年の12月に行われた広島での合宿。そこで初めて、オリンピック金メダリストである日本大学の富山先生と自衛隊の宮原コーチに会って、私も同じようになりたいと夢を抱くようになり、少しでも夢に近づくために網野高校へ進学しレスリング部へ入部することを決めました」
▽情けない自分からの脱却―
「高校2年になると減量が辛くレスリングを辞めようか悩む時期がありました。そんな時、たしか2学期だっと思いますが、全校集会で目が見えないという障害を持ちながらも自立した生活を送り、マラソンにも挑戦している方の講話を聴く機会がありました。私は「自分は健康な体、情けない。ハンデもなく夢を追うことが出来る」とその日をきっかけにレスリングとしっかり向き合えるようになりました」
▽夢から目標へ―
「大学は富山先生のいる日本大学を選びました。2年と4年の時、年2回ある全国大会でいずれも優勝、4年のときには世界大会にも出場しました。その大会で負けてしまった相手が優勝し、その後のシニアの大会でも優勝。自分の試合相手が世界チャンピオンという事実に、自分の中で夢だったオリンピックが目標へと変わりました。そして、メダルを獲るなら宮原コーチのいる自衛隊が最善と考え、1999年に自衛隊に入りました」
▽みんなの支えで掴んだ五輪出場―
「2001年、試合中に両膝の前十字靭帯断裂、病院で手術を勧められるも〝手術は選手生命の終わり〟と考えていた私は決断できずにいました。悩んだ末に高校の恩師である三村先生に相談して決心がつき、1月に左膝、次に右膝を手術、その後は車椅子生活で自由が効かない日々が続きましたが、高校2年の時に聞いた講話を思い出し、前向きな気持ちでリハビリに取り組めました。実践練習が出来るようになったのはその年の9月。レスリングができることの喜びと夢に向かって取り組めることのありがたさを身にしみて感じました。2002年には肩の脱臼もあり落ち込みましたが、自衛隊体育学校レスリング班の励まし、三村先生、妻や家族の支えもありギリギリの状態で五輪出場を決めました」
▽五輪メダルの価値―
「アテネ五輪では日本大学の富山先生が日本代表の監督で、私のセコンドも務めてくれました。監督は試合前夜のミーティングで「オリンピックのメダルは他のどの世界大会よりも価値がある。何色でもいいから絶対に獲ってこい!」と選手らを鼓舞。私の心にも火がつきました。準決勝で勝てばメダルという状況でプレーが消極的になり負けてしまった私は、3位決定戦で〝自分のやってきたこと全部を出そう〟と挑み、延長までもつれた試合は私のカウンタータックルで決着が付きました。その瞬間、セコンドの監督は見たことがないほど嬉しそうな表情で、私にとっても、とても嬉しく満足のいく銅メダルでした」
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