昨年10月、福知山市三和町にあった1本のイチョウの木が、世界が注目する2025年大阪・関西万博の会場へ旅立ちました。旧細見小学校中出分校の校舎で子どもたちのそばにいた推定樹齢100年を越える18mの大きなイチョウの木は、既に移設済みの校舎と共に、映画作家の河瀨直美(かわせなおみ)さんがプロデュースするパビリオン「Dialogue Theater(ダイアローグシアター)-いのちのあかし-」のシンボルツリーとなって来場者を見守ります。
今月号ではイチョウの移植の様子やイチョウに関わった人々の思い、本市が行う大阪・関西万博での展示内容を紹介します。
◆旧細見小学校中出分校の校舎が使用される2025年大阪・関西万博
Dialogue Theater(ダイアローグシアター) ─いのちのあかし─
大阪・関西万博では、旧細見小学校中出分校が奈良県十津川村の校舎と共にパビリオンに生まれ変わります。中出分校は、昭和5年の建設時から閉校になる平成14年まで中出、西松、田ノ谷地区の小学1・2年生の学び舎として使われてきました。このパビリオンでは、その日初めて出会う2人が対話します。対話するのは互いに全く知らない、国籍や人種、文化の異なる人たち。そして、来場者全員がその対話を目撃します。
◆Interview
○いのちを運ぶ仕事でした
福知山から大阪夢洲まで、道路の制限ギリギリの寸法のイチョウを運ぶ、絶対失敗できない仕事でした。しかも、イチョウは生きています。まさに「いのちを運ぶ仕事」でした。いつもは新幹線のような物を運んでいる大型運搬に長けたチームで、心を込めて運びました。このような場に立ち会えたことがとても嬉しく、メンバーも光栄に感じていたと思います。
日本通運株式会社(現:NXエンジニアリング株式会社)
真保正嗣(しんぼまさし)さん
◆イチョウの移植レポート
イチョウの移植を福知山から大阪夢洲(ゆめしま)まで見届けてきました。当日の様子を写真と共に紹介します。
※詳しくは本紙をご覧ください。
・9月25日16時
引き抜かれるイチョウ。根は移植中に傷まないよう特殊なシートで保護。
・10月1日17時50分
セミトレーラに載せられるイチョウ。車両の全長は約22mで、高速道路を通行できないため、一般道で移動。交通量が少なくなる21時まで待機。
・10月1日23時50分
兵庫県川西市の交差点。周囲の車へ注意を促すために赤いライトをつけ、4台の交通誘導車と共に移動していた。珍しそうに立ち止まる通行人もいた。
・10月2日5時35分
大屋根リングをくぐり、建設中の会場に到着。
・10月2日10時20分
パビリオン「Dialogue Theater(ダイアローグシアター)─いのちのあかし─」に運び込まれるイチョウ。仮置きだけでも4時間以上かけ、丁寧に作業が行われた。
◆Interview
映画作家 大阪・関西万博シグネチャーパビリオン
「Dialogue Theater(ダイアローグシアター) -いのちのあかし-」
テーマ事業プロデューサー 河瀨直美(かわせなおみ)さん
○安心してイチョウに会いに来てください
イチョウがいずれ伐採されると聞き、どうにかしたいという思いでパビリオンの植栽デザイナーの方に相談しました。彼は、それまでの庭の構想をすべて白紙にするような新しい案とともに「これでいきましょう」と言ってくれ、推定樹齢100年を越えるイチョウの移植という大プロジェクトが実現しました。
イチョウは、校舎に響いていた子どもたちの声や、記憶を蓄積しています。そして、この地で新たな人たちと出会い、また子どもたちの元気な声であふれるでしょう。そんなつながりを紡げたことに幸せを感じています。
移植のとき、根の部分に中出分校の土を入れ、イチョウが安心できるようにしました。「小枝1本たりとも折らない」。そんな思いのある人たちばかりでイチョウを運び、守っていますので安心して会いに来てください。
◆学び舎を見守ってきた木が世界中の人々の対話を見守る
○世界の真ん中で輝けイチョウ
私が中出分校に通っていたのは、今から78年前の小学1・2年生の時です。卒業した後もイチョウの成長を身近に感じてきました。
人間が成長するのと同じく、イチョウも暑さ寒さに耐え、大きく育ちました。中出分校の校舎が運ばれ、イチョウだけが残されたのを見て、「この後どうなるのかな」と思っていました。大阪・関西万博に移植されると聞き、嬉しく感じます。そして、世界中の人がこの木を見ることが誇らしくもあります。
イチョウの引き抜き作業を見守っていましたが、見事な技術で、根が浮き上がりました。出発する瞬間は、まるで子どもを送り出すような気持ちになり、妻とともに目頭を熱くしながらトレーラーを見送りました。
大阪・関西万博でこの木を見たとき、「いのちが大切」ということを改めて感じることができると思います。世界の真ん中で輝けイチョウ。私もイチョウに会いに行ってみようかなと、楽しみにしています。
現在も三和町中出に暮らす 長澤恒男(ながさわつねお)さん
<この記事についてアンケートにご協力ください。>