■Be water 水になれ
今夏は地球全体が沸騰せんばかりの猛暑で、思わず全身に水をかぶりたくもなったが、この言葉は稀代のアクションスター、ブルース・リーの好んだ表現。元々は「上善如水(じょうぜんじょすい)」(最高の善は水の如し)という『老子』の一節のようで、リーが愛読したという宮本武蔵の『五輪書』とも相通じる。香港の民主化デモにおいても自由を求める若者たちの精神的支柱としてスローガン化していった。
水はコップに注げばコップの形になり、ボトルに注げばボトルの形になる。自在に動きながら、時に破壊的な力を持つ。一滴からいずれは海になるし、気体にも固体にも姿を変える。無色なのに青く深淵に映ることもある。転じて、特定のイデオロギーに縛られることなく「臨機応変、変幻自在に生きよ」と諭(さと)している。
いつの世においても時々の課題はあるが、近年発生する事象には「前代未聞」とか「未曾有」「想定外」といった修飾語の付くことが何と多いことか。自然災害や感染症、ロシアの侵攻等のほか、急激な人口減少と少子高齢化、そして地方の過疎化など未だ経験したことのない深刻な社会問題が山積している。地球温暖化の原因とされる環境問題も待ったなしだ。そんな不確実性・複雑性を極める時代において、我々はどんな心構えが求められるであろうか。大上段に構えるつもりはないが、ブルース・リーの言葉には学ぶべき点が多い。
考え方はシンプルに。争い事には公平、寛大に。政治はコントロールしようとせず、仕事は喜びとなることをする。何よりも今を精一杯に生きる。他人と競うことなく生きていくこと。型を捨て、形をなくせ。そして心を空(くう)にせよ。考えるな、感じよ。
Be water, !―友よ、水になれ!
山崎善也(綾部市長)
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