■微力なれど無力でなし
「世界の火薬庫」と言われる中東の地に、再び戦火が燃え広がっている。何千年も続くこの土地の奪い合いは、引き続き答えの見出せない消耗戦に陥り、憎しみの連鎖だけが昂(こう)じる。歴史的な民族の対立と相容れない宗教の教義、さらに石油を巡る利権と一時の宗主国イギリスの身勝手な裁定。何とか「オスロ合意」で和平への道が開かれたのも束の間、その約束はいとも簡単に反故にされる。そして機能不全の国際機関―。
世界連邦を謳(うた)う本市はイスラエル・パレスチナの紛争による双方の遺児らを招く事業を20年にわたり継続してきた。2003年に綾部市主導で始まったこのプロジェクトは、現地の情勢やコロナ禍などで見合わせたこともあるが、この春も亀岡市の協力のもと実施することができた。参加者は1万キロ離れた極東で平和を謳歌する日本の地方都市に来て顔を合わせ、互いの苦悩を吐露する。最初は戸惑いもあったが交流の深まりとともに、敵とみなしていた相手の心情も悟り、和平の価値を共有し帰国していったばかりだ。
本市の住民にも過去、ホストファミリーとして両国の若者と意義ある時を過ごし、別れの日には互いが涙、涙でハグする光景を目の当たりにした経験をもつ人が少なからずいる。今回の衝突では連日の悲惨な光景を伝える報道に言葉を失い、さぞや心を痛めておられると推察する。同時に、結果としての無力感に苛(さいな)まれているかもしれない。私自身もその一人である。
平和と安寧に感謝しつつも、享受するだけでなく何かできないのか、という焦燥と苛立ちにも似た慙愧(ざんき)の念は拭(ぬぐ)い難い。〝微力でも無力ではない〞と鼓舞した言葉も今は虚しく響く。それでも、たとえそうであっても、〝今日の夢を明日の現実〞にすべく〝大河の一滴〞になり得る術(すべ)を、地球市民たる一人一人が愚直に求めていくしかあるまい。
山崎善也(綾部市長)
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