私たちの食を支える、農業。今、業界は深刻な後継者不足に悩まされています。
日本の新規就農者数は、最新の統計で年間約4万5,800人(農林水産省HPより)。4年前と比較して1万人規模で減っており、若手に世代交代できずに高齢化も進んでいます。
農業は、私たちにとって魅力のない職業なのでしょうか。いいえ、きっとそうではないはず。答えを求めるため、農業の世界に希望を見いだし、道を切り拓ひらく農家の皆さんに話を聞きました。彼らと共に明日の農業を担うのは、あなたかもしれません。
■吉野ヶ里町共同乾燥調製 貯蔵施設利用組合
組合長 内川正良(70)
サラリーマンを60歳で退職するまでは兼業で父親を手伝い、現在は米・麦・大豆を作る専業農家の内川さん。「実は農業はしたくなかった」という。昔はトラクターに屋根もなく、特に夏の農作業は「きつい」イメージしかなかったそうだ。
「昭和46年からの減反政策があるまでは、50~60アール※で生活できるくらい米の値段も高かった。でも、今は簡単に子どもに農業しろとは言えない」。豆田地区でつくる吉野ヶ里中部営農組合も、昔は90人以上いたものの現在は50人。後継者問題が深刻化しているという。
「農業もいいよ。サラリーマンの時は時間や休暇の融通がきかなかったけど、農業は自分のペースで仕事ができるし、手入れをした分だけ成果が出るからね」。一方、機械化が進み今はずいぶん作業は楽になったものの、その分経費がかかると頭を悩ませる。「これからは、稼げる農業を皆で考えなければいけない」と、今後の農業の行く末を心配する。
※1アール=10m×10M
■佐賀県農業協同組合 神埼営農経済センター 吉野ヶ里事業所
所長 福山秀幸
共同乾燥調製貯蔵施設(カントリー)が令和5年5月に完成したことは、「町の農業改革の第一歩だ」と語る福山秀幸所長。10年前に町内全域で1つのカントリーに集約する話が上がったが、山間部からの運搬距離などの問題で一度中断した。今回、サブ施設(集荷中継場)を設けることで、計画は一気に進んだという。
カントリーではトラックスケールを導入し、ドライブスルー方式で素早く計量でき、集荷作業の速度は飛躍的にアップ。サイロへの一時保管もできるため、以前のように刈り取りを中断して乾燥作業を行うこともなくなった。
乾燥機や色彩選別機などは最新設備がそろい、安全性と品質の高い米や麦を出荷している。おかげでカントリーで調製した米・麦の市場評価も上がっているという。
町で一つの施設となったことで、皆で同じ方向を向けるようになった。「農家が抱える課題を含め、農業の5年後、10年後の未来を見据えて、行動する時が来ている」と福山所長は語る。
■地域計画策定に向けた「協議の場」
10年後の地域の農地は誰が利用し、農地をどうまとめていくのか。高齢化や人口減少による農業者の減少、後継者不足、耕作放棄地の拡大など、農業を取り巻く課題を地域全体で共有し、次世代に農地を引き継ぐべく、問題解決に向けた地域計画をつくるための協議が行われている。
協議の場では、土地開発後の道路と水路の整備、交通と農道の共存、耕作地の集約化など、次々に課題が可視化された。その上で、これから農地を守るための話し合いを継続しながら令和6年度に町の地域計画が策定される予定だ。
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