◆人食いバクテリアの脅威
近頃、テレビで“人食いバクテリア”という細菌感染症のことを放送していました。
私が若いころ、アメリカ留学されてきた先輩の外科医から、“壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)”という病気の存在を初めて教えてもらったことを思い出しました。アメリカでは銃創や重症交通外傷が多くあり、この壊死性筋膜炎がごくまれにあったとのことです。傷口から細菌(連鎖球菌)が入り、筋膜(筋肉を包んでいる膜)に沿って感染が広がり、組織の壊死(組織が死ぬことを壊死という)が急速に進んでいくという。一刻も早く治療(壊死組織の除去や抗生剤の投与など)をしないと、多臓器不全を来し、致命的になるという。
この壊死性筋膜炎が、今日話題の“劇症型溶血性レンサ球菌感染症”です。メディアでは“人食いバクテリア”という新語を用いて話題を提供しています。それはあたかもこの細菌が人を食べていくイメージだからでしょう。
日本では毎年100~200例の発生があるらしいのですが、昨年からかなり増えてきており、今年は6月時点ですでに977例が報告されています。増えている理由はよくわかっていません。
この人食いバクテリアという菌の正式名はA群溶血性レンサ球菌(略して“溶連菌”)です。子どもに咽頭炎を起こす、ごくありふれた菌ですが、まれに上記のような劇症型があるのです。
傷口(ない場合もあるという)の周囲が発赤腫脹し、痛みが強く出て、それが急速に広がるようだったら、この病気が疑われます。そのような場合はただちに高度医療機関にて迅速な治療が必要です。
インフルエンザやコロナのように人から人へ伝染する病気ではないので過剰な心配は必要ないですが、発症すれば極めて重症化し、致死率は30~40%です。
“人食いバクテリア”という用語は正式な医学用語ではありませんが、その言葉の響きは人々に強い警戒感を与えます。そういう意味では誰が使い始めたか知りませんが、非常にインパクトのある優れた新語と思っています。
国民健康保険脊振診療所 牛島 幸雄
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