◆大腸がん検診の“便潜血検査”は有効か?
大腸がんは日本人のがんの中では最も頻度の高いがんです。しかも進行がんでなければ治癒率が高いです。定期的に大腸の検査を受けていれば、大腸がんによる死亡を防げるはずですが、現実は多くの人がこのがんで亡くなられています。
なぜでしょうか。大腸がんの検査といえば、大腸内視鏡検査ですが、その検査を受ける人が少ないからです。その理由は前日からの前処置(特別食を食べたり、下剤を服用したり)が面倒なこと、内視鏡検査そのものにかなりの苦痛を伴う場合があること、羞恥心などです。
一方、胃がん健診(胃X線検査または胃内視鏡検査)を定期的に受ける人は多いです。そのため胃がんによる死亡数は減っています。大腸がんによる死亡を減らすためには大腸内視鏡検査を増やす必要があります。
大腸がんの健診には、便潜血検査(大便の中に含まれる微量な血液の存在を調べる検査)があることを皆さんはよくご存じのことと思います。この検査で陽性(便の中に血液が混じっている)であれば大腸がんかもしれない、陰性(便の中に血液が混じっていない)ならばがんではないだろうと思うでしょうが、実際はそんなに単純ではありません。
便潜血検査はがんを見ているのではなく、便の中の血液の有無を見ているだけです。健診で便潜血が陽性に出る頻度は、受診者の10人に1人ぐらいあります。
ここに便潜血陽性の人が100人いらっしゃるとします。その人達が大腸内視鏡検査を受けるとします。そして本当にがんが見つかるのはそのうちのわずかに2~3人です。ということは便潜血が陽性であっても、97~98人にはがんは見つからないのです。
便潜血検査はなぜそんなに精度的に低いかというと、痔の疾患、ポリープ、憩室など、がん以外の病気での出血もありうるし、なんら病気はなくても便が大腸を通過する際に腸粘膜に微小な傷が生じ、わずかな出血があるからでしょう。
一方、便潜血が陰性だったとしても、100%大丈夫ではありません。がんがあっても便潜血が陰性のこと(偽陰性という)も少なからずあるのです。
便潜血検査の精度は低いので、こんな無駄な検査は受けずに、2~3年毎に内視鏡検査を受けた方がいいのではと思われるかもしれません。確かにその通りです。
しかし冒頭にも述べたように、定期的に大腸内視鏡検査を受ける人は少ないです。まずは健診を受けて、便潜血検査が陽性と出たので、がんかも知れないと不安になって、やむなく内視鏡検査を受けられるというパターンが多いだろうと思います。
便潜血検査の意義は、大腸内視鏡検査を受けるきっかけを作っていると思ってもいいでしょう。そして良いことには、便潜血陽性だけで、他に症状がないような場合は、早期がんの割合が高いのです。したがって便潜血検査の意義は十分にあると思います。
反対に症状(腹痛、血便、貧血、便通異常など)が出てから検査を受けるとしたら、手遅れになっているかもしれません。進行がんの割合が高くなるからです。
結論ですが、便潜血検査は大腸がんの検査としては精度的には劣るが有用です。大腸がんで死なないためには、毎年この便潜血検査を受けることが望ましいです。
国民健康保険脊振診療所 牛島 幸雄
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