農業や農村地域には、農地や水源の保全、良好な景観形成などの多面的な機能があり、重要な地域資源となっています。「多面的機能支払交付金」は、このような環境保全のための地域活動に対する支援制度です。
今回の特集では、制度概要と活動事例を紹介します。
■どんなことに対して支援がありますか
事業計画に定めた対象農用地面積に応じて交付金が交付され、農地まわりの草刈り・泥上げや、植栽などの景観形成活動、啓発普及活動、水路や農道などの補修・更新といった活動に対して、作業をする人たちへの日当、資材・花などの購入費、機械の借上料などに使用できます。
■どんな人たちが対象ですか
農業者のみまたは農業者および非農業者で構成される活動組織が対象です。
※対象や交付内容など、制度の詳細は本紙9ページで紹介しています。
◆こんなことに活用しています
○取組事例1.中央地区農地・水・環境保全協議会(氷上地域)
・取組の概要
当初、私たちの組織は、氷上町中央地区の5つの地域(西中、犬岡、黒田、上成松、常楽)がそれぞれに多面的機能支払交付金事業に取り組んでいました。現在は、事務などの効率化をめざして広域化に取り組み、中央地区の農業者をはじめとする複数の団体と連携して、地区内の農業環境維持向上をめざして活動しています。
また、活動組織の構成団体の1つである「親父の腕まくりの会」が中心となり、地域の小学5年生と毎年米づくりを実施しています。今年は地区内の子どもたちに農業の継承活動として5月に田植え、9月稲刈り体験を実施しました。
・取組の効果
平成30年頃から、野生のイノシシ、シカなどによる田畑の農作物被害が増加しています。令和3年度から年2回以上、組織の役員を中心とした獣害柵の点検や集落ぐるみで電気柵を点検・補修し、水田を管理してきました。現在は、多面的機能支払交付金を活用し、新たな柵の設置や保守点検、草刈りによる維持管理を行うことで農作物の被害を防いでいます。
(事務局 池田将徳(まさのり)さん)
・今後の課題
地域農業の中心を担っている大規模農業者は、数年後には80歳代を迎え、後継者不足による放棄田の増加は避けられず、担い手不足解消が重要な課題です。地域計画を立案し、農地の集約を見据え、行政やほかの地区の大規模農家と話し合い、連携を図っています。少しずつではありますが、持続可能な活動となるように前向きに取り組んでいます。
・その他
農地の取水元である地下水や河川水の水質調査を毎年実施しています。交付金を活用して水質検査キットを購入し、地区内に複数ある浅井戸などで実施しています。また、用水路の草刈りや土砂上げに加え、農道整備や揚水機、取水施設の修理を実施しています。
○取組事例2.稲継共同活動の会(氷上地域)
・取組の概要
自治会の会員を中心に農地のあぜや水路の草刈り、ごみ拾いを行っています。夏休みには「農業用水路の探検」と題し、子ども会や公民館事業と連携して地域の子どもたちと一緒に水路の生き物などを観察する企画を実施しています。このほか、農地に水を送るパイプラインが敷設から約30年が経過し劣化し始めていることから、見回りや修理も行っています。
(代表 藤原義彦(よしひこ)さん)
・取組の効果
生き物観察を通して、農地周辺の自然環境について学ぶことで、直接農業に関わりがない子どもたちにも関心をもってもらうきっかけになっています。ドジョウやメダカ、ザリガニなどの生物を採集でき、毎年参加してくれる子の中には大人よりも詳しくなり、捕まえ方などを教えてくれるようになるなど、うれしい反響もあります。農地周辺の生物環境調査にとどまらず、子どもたちにとって自然と触れ合う楽しさを知る良い機会になっていると感じています。
・今後の課題
兼業農家を中心に、高齢化でどんどん農業を断念する人が増え、後継者不足が今後の課題です。私たちの地区は平地で広く、機械もたくさんあるため、みんなで草刈りをしていますが、高齢化に伴い水路の除草や掃除が年々大きな負担となっており、作業の継続についても考えていく必要があります。点在する農地の集約化などをはじめ、地域の農地や環境を守るために、みんなで力を合わせながら取り組んでいます。
・その他
使われなくなった農地を活用し、景観作物としてコスモスの種をまく取組を行っています。規模はまだ小さいですが、毎年きれいに咲いてくれるので、秋の見頃になるとたくさんの方が写真を撮りに来てくれています。道路沿いにあることから、通勤通学の人たちが足を止めて観賞している姿を見ると、やりがいを感じます。
(副代表 藤原 亨(とおる)さん)
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