小児科医で脳科学者の成田奈緒子さんに、清元市長、現在子育て中の久保田教育長と共に、子どもたちのより良い成長について話し合っていただきました。
聞き手:広報推進員 大山純奈
3月31日(月)まで、対談の様子を動画で公開しています(本紙の二次元コードを読み取りご確認ください)
■ゲスト 成田奈緒子さん
文教大学教育学部特別支援教育専修教授、小児科専門医。脳科学をベースに親子支援事業を行う「子育て科学アクシス」の代表。子育てに関する相談業務や政策提言を行い、著書も数多く出版。
■勉強よりも大切なこと
成田:私はこの20年以上、子どもを育てるためには、睡眠がすべての基本であると申し上げています。特に、小学校に入るまでの睡眠の確立が、その子の一生を決めると言っても過言ではありません。私が出産したときは医師として病院に勤めていましたが、生後50日から保育所に子どもを預け、とにかく夜8時には寝かせることをモットーに子育てをしていました。
教育長:私も成田さんの著書をバイブルにして、5歳の娘を育てていますが、働きながら夜8時に寝かせるって本当に大変ですよね。
成田:後でお釣りがたくさん返ってきますから、今だけ頑張ってください。私も、子どもが6歳の時に夫が単身赴任で、ベビーシッターさんを雇ったりして、夜8時に寝かせるためにお金をかけました。
教育長:ご飯はどうするのですか?
成田:朝に料理したいろんなおかずを、チンして食べていました。うちは朝ご飯が一番多いので。
大山:睡眠を取る子と取らない子では、どのような違いがあるのでしょうか。
成田:夜遅くまで起きることが習慣になっている人は、睡眠障害やうつ病が多い、学力が低い、成長後のアルコールやドラッグ摂取が多い等のデータがあります。そして、運動するとけがが多いことも分かっています。
教育長:睡眠中は体に何が起きているのでしょうか?
成田:睡眠は身体と脳を休める以外に、骨や筋肉を増やす成長ホルモンを出すという重要な役割があります。大人にとっても、細胞のリニューアルや活性化が行われるとても大事な時間です。また、睡眠時間の後半は、脳の中に蓄積された知識や情報を整理する時間なので、学習に関しても睡眠はとても大事です。
市長:睡眠は非常に大切だと思いますよ。睡眠が足りないと、脳の下垂体から出るホルモンが乱れます。私が学生の頃は、徹夜で勉強して試験を受けても、成績は伸びませんでしたね。
久保田:でも、例えば友達が夜に家族でカラオケに行った話なんかを聞くと、それはそれで楽しそう、と思ってしまいます。
成田:それは昼でもいいと思います。うちでは団らんの時間は朝です。朝は脳の中にセロトニンという、いわゆる幸せホルモンと呼ばれる物質が大量に出るので、ポジティブな話題が多くなります。夜はついけんか口調になってしまう方が多いですね。ぜひ、皆さんも朝の団らんをやってみてください。
教育長:睡眠は勉強にも影響がありますか?
成田:レム睡眠という浅い睡眠の時に記憶の情報の統合が起こるので、寝ないで勉強しても、記憶が駄々漏れになってしまいます。
大山:夜、塾に通っていると、早く寝ることは難しいのではないでしょうか。
成田:まず睡眠の時間と体内時計を確立して、ホルモン分泌を整えた上で、余った時間を塾や習いごとに使う方がいいと思います。うちの娘は早く寝ていたので塾には行きませんでしたが、それでも医学部に行ったので、何とかなるものです。
市長:私も行かなかったですね。自分のペースでやる方が合っていました。
■子どもが自分から勉強するようになるには?
成田:この相談はとても多いです。でも、勉強を強要されると、嫌いになりませんか?多いのは、親御さんがつきっきりで宿題をやらせているケース。例えば、漢字ドリルを汚い字で書くと、お母さんが消してやり直させる、みたいなことをずっとやっていると、子どもは勉強を嫌いになってしまうかもしれません。
教育長:うちの子も今、数字の勉強をしていますが、6と0の書き方が一緒なんですよ。何度も注意すると、数字を書くことを楽しんでいるのに、私がストップをかけちゃう。でも間違えてるし、どうしようってすごく悩みます。
成田:子どもたちって、本当に自分が困ったときに、やりだすんですよ。その6と0の間違いで、自分が取れると思った100点が80点だった時に、悔しいと思って勉強しだす。失敗は子どもの成長にとってとても大事です。そこまで待ちましょう。
■脳には育つ順番がある
成田:5歳までは、睡眠を中心とした原始人的な生活をさせるのが良いですね。朝日で起きてしっかり食べて、昼間元気に動いて、夕日が沈んだらバタンと寝る生活リズムを作りましょう。この時期に、脳幹という脳の中心部分が育ちます。
土台ができたら、次は子どもの興味の対象を深掘りできる環境をつくります。虫が好きな子なら昆虫を買いに行くなどして、刺激を与えます。
10歳以降に前頭葉が最終的に発達するので、いろんな知識や情報を統合して自分なりの論理を作ったり、他者との関わりを考慮しながら社会性を育んだりすることができるようになります。そこで初めて、将来を考えて自分から勉強するようになります。
■習いごとは頑張って続けさせるべき?
教育長:いろいろやらせてあげたいと思いますが、一度始めて途中で諦めるのも良くないのでは、とも思います。子どもの気持ちとどう向き合って、習いごとを選ぶべきでしょうか。
成田:子どもが途中で飽きてしまうことは、よくあります。ただ、そこでやめてしまっても、5〜10年後にもう一度やりたいと言いだす子どもも多いです。経験させることはとてもいいことですが、拒否感が生まれるまで親が強要するのは良くないですね。
市長:そうですね。私は絵画、書道、剣道、ピアノを習っていましたが、最後まで続けたのは書道だけでした。最初は好きではなかったのですが、母親に「字がうまくなったね」と褒められて、すごく自己肯定感が上がりました。だから今も、丁寧に字を書くことだけは心掛けています。
成田:親子で一緒に楽しめる習いごとも良いですね。親がうれしそうにしていると、子どもに良い影響を与えます。
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