■「あたためるもの色々」
十二月に入り、朝晩の冷え込みも厳しく、すっかり冬本番といった感じです。朝起きてすぐに暖房器具のスイッチを入れる人も多いのではないでしょうか。
平安時代の随筆『枕草子』(清少納言)の冒頭にも、そんな冬の朝の営みが生き生きと描写されています。少し引用してみましょう。
「冬はつとめて。(略)いと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶(ひおけ)の火もしろき灰がちになりてわろし。(冬はなんといっても早朝が良い。(略)とても寒い朝に火を急いで起こして、炭火を持って(部屋を)渡る様子もとても良い。昼になって寒さが緩むと火桶の火も白い灰ばかりになってあまりよくない)」
ここに出てくる「火桶」とは、円形の火鉢のことです。火鉢は、中に灰を入れ炭火を起こして用いる採暖(さいだん)具で、五徳(ごとく)(鉄の輪に三脚の付いた鉄瓶(びん)などを乗せるための道具)を置いて湯沸かしに使うこともありました。『枕草子』には、ほかにも「火桶は、赤色。青色。白きに作絵(つくりえ)もよし」との記述があります。火鉢は調度品としての性格もあり、とくに江戸時代の中期には引出しなどが備えられた大型の長火鉢が作られ、茶の間や商店の勘定場などに据(す)えられるようになりました。また、火鉢は部屋全体を温めることができないため、持ち運びしやすい小型の火鉢である手焙(てあぶり)なども作られました。
現代では、炭を暖房用に用いることは少なくなりましたが、電気やガス、灯油などの燃料が普及するまでは、炭や炭団(たどん)(炭の粉末にふのりなどを混ぜ球状に固めて乾かしたもの)は主要な熱源でした。ほかに炭を用いるものとしては、蒲団(ふとん)をかけて使用する行火(あんか)があります。持ち運びができるサイズで作られており、瓦製のものが主流ですが、木製のものもありました。中が空洞になっていて、炭火などを入れた火入(ひいれ)を出し入れすることができます。熱を外に広げるため側面に穴があいており、やけど防止のため周りに和紙を貼り付けたりすることもありました。また、こうした行火や火入を櫓(やぐら)状の木枠の中に入れた置炬燵(おきこたつ)(櫓炬燵)は、江戸時代に広く使われるようになりました。現在の私たちがイメージするテーブル状の炬燵は、温泉宿や大衆旅館で炬燵蒲団の上に食事用の天板を置いていたものが一般家庭に普及していったといわれています。昭和三十年代以降は、炭火に代わって電気炬燵や電気行火が主流になっていきます。
このほかにも、お湯を入れて使う湯たんぽや携帯カイロなど、エアコンが主流となった現代でも私たちの身の回りにはさまざまな暖房器具があります。上手に活用して、長い冬を乗り切っていきましょう。
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