2025年1月7日、有島記念館。いつもの有島記念館とは少し違い、絵本「ひとふさのぶどう」の展覧会と「ニセコキッズパーク」が開催されている館内企画展示室から、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきました。
有島記念館でのキッズパークの開催、しかも展覧会との同時開催は初めての試みです。開催に関わっているみなさんの思いをお聞きしました。
◆有島武郎の思いを次世代へ
有島武郎は、自らの所有する農場を小作人全員の共有として無償開放したことで知られています。また、本能のままに生きる農夫の姿を描いた「カインの末裔(まつえい)」や農地所有をめぐる父子の葛藤を描いた「親子」など、狩太村(現・ニセコ町)を舞台にした小説を数多く残していることでも有名です。そして、有島武郎の遺訓である「相互扶助」の考えは、現在もニセコ町のまちづくりを支え、息づいています。
令和5年(2023年)は、有島武郎がこの世を去ってからちょうど100年。長い年月が経過するにつれ、有島武郎の作品や有島武郎という人物がいたことそのものが忘れられつつあると感じた有島記念館が、有島武郎の考えに永遠の命を吹き込もうと企画し、絵本「ひとふさのぶどう」が出版されました。
有島武郎が自分自身の子どもを喜ばせようと書き、広く読まれていた童話「一房の葡萄(ぶどう)」。この童話には、有島武郎が伝えたかった「相互扶助」の考えが盛り込まれており、現代を生きる我々の心にも響く内容です。それを感じてほしい、何度でも手に取ってほしいという有島記念館の思いや、この童話が伝えたいあふれる思いが凝縮されています。絵本を通して有島武郎のように、たくさんのことに悩み、考えることができる素敵な作品に仕上がりました。
◆安心して遊べる場所
平成29年(2017年)8月に、町民中心の団体が行うまちづくり活動を町が支援する事業であるまちづくりサポート事業を活用して実施された「ニセコキッズフェスティバル」。天気を気にせずに親子がストレスなく遊ぶことができ、安らげる場所や親同士のコミュニケーションの機会となる場所がほしい、将来的に子育て環境を向上させたい、というお母さんたちの思いから開催され、2日間でたくさんの親子が来場しました。
その後、町民の子育て世代に対する支援事業などを行うことを目的に、NPO法人ニセコ未来サポート隊が設立されました。託児や子ども向けイベントなどといったさまざまな事業を行い、その一つとして「ニセコキッズパーク」を開催、親子の居場所づくりが行われてきました。
◆思いが伝わる安らぎの遊び場
今回のキッズパークの会場の壁には、絵本「ひとふさのぶどう」全ページがパネルとして展示され、絵本を読み、有島武郎という人物を知り、有島武郎の思いや考えに触れることができます。そして会場内では、エア遊具やトランポリンなど、自分の好きな遊具で自由に遊ぶ子どもたちと、そんな子どもたちを笑顔で見守る保護者の姿も見られます。
「有島武郎を次世代へつなげたい」という有島記念館の思いと、「親子が安心して遊べる居場所を作りたい」というニセコ未来サポート隊の思いが、今回のキッズパークを作り上げています。
◆それぞれの思いがつながり、生まれた「キッズパーク」
◇有島記念館の思い
・学芸員 伊藤 大介さん
ニセコ未来サポート隊からお話をいただき、キッズパークを有島記念館で実施することになり、キッズパーク内での絵本「ひとふさのぶどう」展覧会を提案しました。冬に室内で遊べるところがないという問題は知っていたので、その地域課題の解決につなげたいという思いと、有島記念館が企画・監修して出版された絵本「ひとふさのぶどう」を知ってもらいたいという思いがあったからです。
子どもたちは、学校の授業などで有島記念館に来ることがあるかもしれませんが、有島記念館が楽しい場所だというイメージは持っていないのではないでしょうか。今回のような遊びを通して、有島記念館を覚えてもらえるとうれしいです。そして、こうした文化施設がみなさんの生活の中に溶け込んでいったらいいなと思います。
今回初めて有島記念館で実施していますが、今後も有島記念館で開催したいという思いがあります。そしていつか、有島記念館を子どもたちが遊ぶことができるような場所、絵本の世界に親しんでもらえるような場所、そんな施設にしていきたいです。
◇NPO法人ニセコ未来サポート隊の思い
・理事長 高井 裕子さん
雪に恵まれ、ウインタースポーツが盛んなニセコ町。子どもはスキーを滑り、雪で遊ぶことが理想です。しかし、現実的に毎日スキー場へ子どもを連れていくことが難しいのが親の本音です。特に、兄弟や姉妹がいる場合、下の子の行動に制限されます。冬でも安心して身体を動かせる場所が必要だと思い、「キッズパーク」の取り組みを始めました。キッズパークの遊具は、夏に外で使われ、冬は倉庫で眠ってしまう物を事業者さんからお借りしています。
開催は、ニセコ町や有島記念館のみなさん、志ある地域おこし協力隊のみなさん、子育て中のママたちの協力があって実現しました。有島記念館は年中営業しています。多くの人が集まって、有島記念館が活用されることは、有島武郎の相互扶助精神に通ずるものがあるのではないでしょうか。キッズパークを開催するにあたり、記念館なので、静かに過ごしたい利用者も多いのではないかという葛藤もありました。しかし、町民が集う場所になることは活気があり、有島記念館を訪れる良いきっかけになると思いました。今後は、小学生以上の児童にも楽しめるような居場所作りを目指していきたいです。
開催日も増やしてみなさんのご来場をお待ちしています。親子が安心して楽しめる場所になり、コミュニティーのきっかけになることを心から祈っています。
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