■AIに出来ないこと
これから重視される人間の能力は、他者の気持ちを穏やかにする感情の力であるー。高度に発達した人工知能(AI)が浸透した世界。早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は経済学者の視点から、このような趣旨の未来予測を示します。
高度なAIとは、昨年の5月号本欄で取り上げた「Chat(チャット)GPT」等の生成AIのこと。莫大な量の情報を驚異的速さで吸収しながら今なお成長を続けます。文章の作成や要約、校正、翻訳から、プレゼンテーション資料づくり、絵や音楽の創作に至るまで、その知的活動の幅は広がる一方です。生成AIの話題を目にしない日はないほど急激に実社会での活用が進んでいます。
これまでの技術革新は、熟練のスキルを要する手作業などを機械化する一方、新たな頭脳労働を生み出し、高度化しながら職種の幅を広げていきました。しかし、現代の多くの頭脳労働は、似た分野の情報を組み合わせて処理するもので、それは生成AIが最も得意とする仕事でもあります。
人間に残される仕事は何か。入山教授が一例に上げるのは「感情労働」です。サービス業や医・福祉業、教育業などが該当します。もちろん、これらの現場でも生成AIの活用は進みますが、人に幸福感を与える温かみある表情や言葉掛けは人間にしかできません。マニュアルを超えた優れたコミュニケーションの付加価値が高まり、そのレベルに報酬が連動する可能性があります。
社会の分断が進み、寛容さが失われている昨今。「心の知能指数(EQ)」を高め、利他の心を養い、AI時代をたくましく歩む人材を育成したい。優しく穏やかな美しい村づくりがそこに寄与できると信じて、本年も努力してまいります。
AIには真似できない人間らしい温かな感情の力は、これからの未来を生き抜く重要スキルの一つ。社会が私たちに求める能力は大きな転換点を迎えています
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