■協働の村で人とのつながり
村長:それぞれのお立場で、様々な思いがあったことが分かりました。結果として中札内村は自立を選択し、住民同士で協働しながらまちづくりを進めようと決意し、20年が経過しました。今の状況を太田さんはどのように感じますか。
太田:先生たちとは、「こんな恵まれた学校はないよね」という話をよくしています。地域の方々からたくさんのお支えをいただいており、道立校の中でもここまで地域とのつながりが強い高校はほかにありません。生徒の現場実習先の多さと生徒たちに対する温かな心持ちは特筆すべきものです。コロナ禍でも現場実習を実施することができたのは中札内村だからこそで、本当に感謝しきれません。
村長:村内唯一の道立学校である中札内高等養護学校は、本村にとって大切な存在です。両者の関係はまさに協働の一つの形であり、先生と生徒さんたちにそのように感じていただけるのは嬉しい限りです。さて、協働については文化活動が村内では活発です。寺島さんの取組についてもう少し詳しくお話しください。
寺島:郷土芸能のポロシリ太鼓振興保存会で活動しています。会は開村30周年の節目に設立し、開村80周年となる2年後に半世紀の節目を迎えます。私は小学校2年生の時に仲間入りして30年以上続けていますが、太鼓の魅力はやはり叩くだけで音が出るハードルの低さで、小さな子どもから大人までが一緒に音楽を楽しめるところです。合奏した時に音がぴったり合うと、一体感や達成感を感じやすいです。現在も小学生や未就学の子どもたちが頑張ってくれていて、その姿を見た保護者の方も加入してくれるケースも多く、魅力が多世代に広がっています。会員同士も仲が良く、週1回の練習もアットホームな雰囲気でやっています。
村長:誰もが楽しめるポロシリ太鼓保存会の活動はまさに協働の象徴です。様々なイベント等で活躍して下さり、ありがたく思います。川田さんも色々な活動をされていますが、きっかけはどのようなものだったのですか。
川田:福祉関連の生活支援活動をしているNPO法人「夢といろ」への関わりが最初でした。育児事業の利用者であったころに声を掛けてもらい、会計管理のお手伝いをするようになりました。また、中札内文化創造センター・ハーモニーホールの音響・照明を管理している『Be‐in倶楽部』(※当時はボランティア団体)に声を掛けられ、照明を手伝うようになりました。どちらも深い知識は何も持っていませんでしたが、自分が何かの役に立てるなら…との気持ちがありました。そして、自分が主体となって取り組み始めて9年目となるスペシャルニーズプロジェクトについては、福祉や文化活動を通して広がった仲間たちに助けられながら活動させていただいています。他者との関わりに苦手感や困り感を持つ子どもたちが大人になり社会に出ていく時、親ではない地域や職場の方などが彼らの個性を理解してくれれば、生きやすい社会になると思います。一人でも多くの理解者を増やす上で、自分を支えてくれる仲間の存在は心強く、頼らせてもらいながら自分の知識を共有できるよう少しずつ活動を続けています。
村長:応援してくれる人がたくさんいるのは、川田さんの活動や熱い思いがあるからこそ。素敵な協働の形だと思います。川田さんの活動を長く継続していただくことは中札内村にとってもプラスとなりそうです。
■協働で描く村の未来像
村長:では、皆さんの活動から、今後の村づくりに望むことがあれば教えてください。
小林:今や村内には大きなスーパーのほかにコンビニが3店舗もあって、移住当時はこれほど利便性が高まるとは思っていませんでした。村の活気の現れでしょう。一方、合併論議を経て村は、自立後の財政負担を軽くするため『余分なとこにお金をかけない』という意識を持ち、私たち住民にも浸透させました。必要な公共施設を絞り、行政サービスをスリム化させたのは、人口が減少を続ける今の時代にはプラスだと思います。また、そのおかげで山も水もきれいな素晴らしい自然環境という財産に恵まれていることを認識することができました。そのような歩みを重ねてきた村は、将来にも期待を持てると思います。ただ、財政が厳しい中でも、私は人づくりは大切だと思っていて、特に教育は頑張って予算を投じてやってくれると嬉しいですね。
村長:教育についてはまちづくりの根幹であり、小林さんの意見をしっかり受け止めます。教育の現場にいる太田さんは、何かお考えがありますか。
太田:そうですね。子どもたちは大きな可能性を持っていますが、それを広げるのも潰すのも大人だと思っています。だからこそ私は、地域の方々にも一緒に子育てをしていただきたいです。働くことの喜びや価値を教えるのは、教室だけでは難しいです。学校生活の3年間で、地域の方々にご協力いただき、仕事ってこんなに楽しいとか、誰かの役に立つってことはこんなに嬉しいということをどれだけ体験できるかが、うちの学校の勝負だと思っています。そういう意味では、村の事業所をはじめ、村の人たちが生徒の活動の場を提供して下さり、一緒に地域を作っていけることは本当にありがたいと思っています。引き続きのご協力をお願いします。
寺島:ご近所の方に声を掛けていただき、私も養護学校生の実習を受け入れています。ただ、恥ずかしながらそれまでは自宅の近くにあるのに、どんな学校なのか全然知らなかったのです。実習に来た生徒さんから話を聞いて初めて『面白そうな学校だな』と興味を持てました。自分が大層なことをしているわけではありませんが、地域をもっと知ること、色々な人とつながりを広げることはすごく大事だなと思います。
川田:つながりを広げる大切さは私も同感です。冒頭でお話ししたスペシャルニーズプロジェクトの一環、世界自閉症啓発デーの活動を通してそれを実感します。村内の事業所などにブルーライトアップ(運動期間中に青い照明を飾ること)の協力のお願いに行くと、「あの青いやつね」とすぐ分かってもらえて、本当にありがたいなと思います。また、お店ごとに様々な飾り付けをしてくれたり、SNSでお気持ちを発信してくれたり、理解促進の大きな力となっています。
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