■『白い壁黒い牛』1982年 小川原脩画
1958(昭和33)年、小川原脩は野本醇、穂井田日出麿ら倶知安ゆかりの美術家と共に「麓彩会」を結成しました。この作品は24回目となった麓彩会展に展示した中の1点で、チベットの街の情景を描いています。
1981年と1982年に小川原は夏のチベットを訪れました。当時の新聞に、チベットの旅について書いた小川原の文章が掲載されています。そこには「チベットの夏空は深く澄み切った青だ。なんとも聡明(そうめい)で濃厚で、その下には強烈な直射し、反射する日光が満ちあふれる。何もかもが光の中に輝いて見える。」とあります。
作品に目を向けると、深みのある青で塗られた澄んだ空、直射する日光を反射する白い壁、赤を混ぜた明るい色で乾いた地面が表現されています。
牛の体や大きさの違うさまざまな建物の曲線が絵全体をリズミカルに仕上げているのです。牛は少し首をかしげて建物の方を向いているようです。人が通り過ぎたのでしょうか。チベットの街では牛と人が同じ地面、同じ時の流れの中に存在すると小川原は語っています。私はこの絵を眺めると、時間がゆったりと過ぎていくチベットの街角に佇む旅人の気分になるのです。
文:金澤逸子(小川原脩記念美術館学芸スタッフ)
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