■『無題』1993年小川原脩画
2024年友の会カレンダー「小川原脩遥かなるイマージュ」の6月はこの作品でした。1カ月毎日ご覧いただいて、ご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。
とある画家の方が、「この作品を見るといつも『小鳥に説教をするアッシジのフランチェスコ』を思い出す」とお話を聞かせてくれました。聖フランチェスコ(1182-1226)は、豪商の家に生まれながら財産を捨て、イエス・キリストの生涯に倣うべく野に出て信仰に生きた聖人。その逸話は、彼が野原で地面にいた鳥たちに説教を始めると、木に止まっていた鳥たちも次々に舞い降りてきて聞き入ったというもの。西洋絵画の父と呼ばれるジョットもこの逸話を描いています。
では、この作品に目を向けてみましょう。壁に沿って路地にしゃがむ少年は、インドの伝統的な白いクルタ・パジャマに身を包んでいます。向かい合う小鳥は、大きな素焼きの壺(つぼ)に止まり、堂々と胸を張って人の目線と高さを合わせ、まるで対話をしているようです。両者の背景には横に細長い家が建っていて、ここが街角であることを示しています。小川原脩が晩年、インドを旅して目にしたモチーフを自由に組み合わせ描いているのですが、かえって小鳥が少年を諭しているようにも見えてくるので不思議です。
文:沼田絵美(小川原脩記念美術館副館長)
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