前回に引き続き、NHKの「虎に翼」から、実際の裁判例を紹介します(以下、ネタバレがあります)。今回は、原爆被災者が国に損害賠償を求めた原爆訴訟を紹介します。この裁判は8年にもわたる長いものとなり、結論として原告である被爆者の方の請求は退けられました。しかしながら、判決では原爆投下が国際法に違反することを認め、ドラマでは裁判長が、国の被爆者らの救済について次のように述べました。これは実際の判決文の中にも記載されています。「不幸にして戦争が発生した場合には、いずれの国もなるべく被害を少くし、その国民を保護する必要があることはいうまでもない。…国家は自らの権限と自らの責任において開始した戦争により、国民の多くの人々を死に導き、傷害を負わせ、不安な生活に追い込んだのである。…被告がこれに鑑み、十分な救済策を執るべきことは、多言を要しないであろう。しかしながら、それはもはや裁判所の職責ではなくて、立法府である国会及び行政府である内閣において果さなければならない職責である。しかも、そういう手続によつてこそ、訴訟当事者だけでなく、原爆被害者全般に対する救済策を講ずることができるのであつて、そこに立法及び立法に基く行政の存在理由がある。終戦後十数年を経て、高度の経済成長をとげたわが国において、国家財政上これが不可能であるとはとうてい考えられない。われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである。」
結論は請求棄却でしたが、国はこの後、被爆者援護のための法律制定に動いていくことになります。当事者の方が差別に苦しみながらも声を上げたことに加え、裁判所、原告代理人らも、その職責の中で、できうることに最大限努めた結果ではないかと思います。
ようてい法律事務所弁護士 渡邉恵介
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