■『無題』1975年小川原脩画
暗い背景に柔らかな筆使いで人物が描かれています。赤と茶色のふんわりした髪に、血色の良い健康的な肌をした女性です。丸い襟ぐりの赤い服が若々しく華やかな印象を与え、モチーフの輪郭をぼかすことでやさしい雰囲気に仕上がっています。ふっくらした手にはカーネーションが添えられ、花弁は白い絵の具で丁寧に描かれています。
1970年代の小川原脩は、世の中が群化し都会へ都会へと向く中、取り残される内的な自分を表現するため身近な動物をモチーフにした作品を多く描きましたが、この女性像はその時代に描かれた数少ない人物画の一つです。ではこの女性は誰なのでしょう。実在の人物をモデルにしたのか、それとも小川原が想像で描いたのか、亡き母をしのぶという意味の白いカーネーションは誰かへのメッセージなのでしょうか。
1974年に東京国立博物館でモナ・リザが展示公開され大きな話題になりました。その翌年に小川原はこの絵を描いています。小川原がこの世界一有名な人物画を意識して描いたのかはわかりませんが、モナ・リザを思わせるような黒い瞳の女性に不思議な魅力を感じるのです。
文:金澤逸子(小川原脩記念美術館学芸スタッフ)
<この記事についてアンケートにご協力ください。>