■『裸婦』1949年小川原脩画
この作品を目にした時にぱっと思い浮かんだのが、フランスの画家・アングルが描いた「グランド・オダリスク」(1814年、ルーブル美術館蔵)。皇帝ナポレオンの妹であるナポリ王妃カロリーヌの依頼を受け、当時流行していたオリエンタリズム(異国・東方趣味のこと)を取り入れトルコのハレムの女性を描いた作品です。
本作との共通点は、背中と臀部(でんぶ)をあらわにし、こちらへ視線を投げ掛ける、ひねった体が印象的な美しく艶めかしい女性像であること。しかし、オリエンタルな調度品や実際の人体よりも伸びた表現で美しさを強調したアングルの作品に対して、小川原の裸婦は背景や小物は削(そ)ぎ落とされ、赤と白の明瞭な画面上に現実味のある肉体が横たわります。制作された1949年、小川原は38歳。戦後の混乱に翻弄(ほんろう)されながら絵筆を握っていた当時としては大作であり、誰かに依頼され、描いたのかもしれません。その後、3人もの所蔵者を経たという本作は、今年の6月に鈴木保昭氏により当館へ寄贈され、コレクションに加わりました。
文:沼田絵美(小川原脩記念美術館副館長)
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