■『無題』1961年小川原脩画
1958年の夏に、倶知安町内の峠下小学校の児童たちが数個の石器を見つけたことで遺跡調査が始まり、小川原脩も発掘に参加していました。
出土した土器や石器から考古学に関心を持った小川原は、1950年に発見された余市町のフゴッペ洞窟にも足を運びました。発掘現場で見た太古の人々のテクノロジーと感性は小川原の創作にも強い影響を与え、遺物や砂岩壁に刻まれた刻画をモチーフに数十点描き、その頃小川原と仲間たちが発足した「麓彩会」に次々と作品を発表しました。
画面の上部には、茶色を混ぜた白い絵の具が荒々しいタッチで帯状に塗ってあり、その下には赤い絵の具でいびつな四角形が描かれています。ペインティングナイフの底面にたっぷり絵の具をすくいとり、キャンバスに押し当ててスライドさせた跡が、画面のモチーフを凹凸のある硬質で力強いものに仕上げています。
終戦の年郷里に引き揚げてからは、風景や身近な動物をモチーフに作品を描いた小川原でしたが、この作品では古代の人々の暮らしや情景、精神性を抽象的に表現して後志の原始の美を描いています。
文:金澤逸子(小川原脩記念美術館学芸スタッフ)
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