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小さな本屋のひそひそ話 第11回

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北海道大樹町

■大人のために本屋をやりたい
昨年の6月から9月まで、満月の日の夜にだけ開く「満月のうらがわ書店」というお店を某所で開きました。書店というよりは本も買える喫茶店というような形で、お茶とお菓子を用意し、静かに本を読んでもらう場所としました。普段の生活と地続きでありながら「満月の夜」という非日常的な空間がとても好評で、北海道新聞でも大きく取り上げていただきました。
「大人のための場所を作りたい」というのが満月のうらがわ書店を開いた最初の動機です。大人というと言葉が曖昧ですが、ここでは20代から50代くらいまでの「働き盛り」を指しています。私たちは、子どもや退職した世代を「支える存在」として、毎日、骨太に、汗水垂らして一生懸命働いています。自分のために、家族のために、社会のためにです。では「ケアする存在としての私たち」が「ケアされる場所」は、一体どこにあるんだろう。私たちを助けてくれるのは誰なんだろう?という疑問がずっと頭にありました。
病気になってしまったら、病院に行けばいい。でもその前の未病の状態というのでしょうか。「あ、私、ちょっとだめかもしれない」と思ったときに、駆けこめる場所が欲しいと思いました。とはいえ、私は医者でもカウンセラーでもなく、ただの本屋です。誰かを癒す技術はないのですが、自分で自分の機嫌をとる(心身の調子を整える)ために有用だったのが、私の場合は紛れもなく本でした。だから「本というものを手掛かりにして、もっと大人たちが、自分で自分を大切にできる場所を作ろう。普段は何食わぬ顔して逞(たくま)しく生きている人が、自分で自分を癒せる場所を作ろう。そんな場所を必要とする人が、緩やかにその時間を共有できる場所にしよう」そんな思いがありました。
満月のうらがわ書店は、実際そのように機能してくれました。大の大人が何人もいるのに、それぞれの方がそれぞれに読書に耽ふける姿はとても素敵でした。窓の外から満月が昇るのを皆で眺めたのも特別な時間になりました。
月のうらがわ書店は、これからも「大人のための本屋」であろうと心に決めた瞬間でもありました。

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