■歴史のリレー
2月。「そのカバン、素敵ですね。」外国人の青年が出張先のセミナー会場で声をかけてきました。それは、2023年末に廃業し116年の歴史に幕を下ろした竹谷製材製柾所の前掛けを使い、町内の手芸愛好家である来田良子さんが製作した私の愛用トートバッグでした。「和風が気になるの?」と聞くと「火消しや和の歴史が好きで、イギリスで勉強しました。今はデザインの仕事を始めています。アイヌの模様も大変興味があります」と、日本語で会話が続きます。「天塩町っていうのは材木をたくさん取り扱った歴史があり、特にアカエゾマツは…」と私は熱く語りながら町をPRし、来田さんにカバンの作り置きがあるか聞いてみることを約束しました。町に戻り来田さんに相談すると、「作り置きはありません。竹谷さんに前掛けがまだあるか聞いてみましょう」とのこと、運よく竹谷さんから貴重な最後の前掛けを譲って頂くことができ、カバンの完成となりました。
後日、アントンという名のその青年にカバンを手渡すと「うれしい。裏の模様も気に入りました」と大喜びです。「よかった。で、出身地は?」と聞くと、「ニューヨーク。日本語はここ1年、慶応大学で勉強しました」アントンはそのカバンをさげ、東京やニューヨークをはじめ世界を歩き、素敵な広告塔となってくれるようです。我々の手を離れ天塩町の歴史が若い世代を通じてリレーされる。竹谷さんの前掛けは天塩のレガシー(歴史遺産)として関係人口を増やし、まだまだ働いてくれるでしょう。
カバンの肩ひもの長さを決める時、「彼は背が高いの?」と聞く来田さんの質問に私が「うーん、190センチくらいかな」と答えるなどやりとりが続き斜めがけの大きなカバンとなりました。カバンを渡すときにアントンにたずねると、「僕は199センチありますね」まさに広告塔。「てしおこもれびの森」にこだわりたいと言う来田さんがカバンに添えたドングリの飾りは、歴史のリレーを見守るお守りのようでした。
(三國)
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