●地域医療に忍び寄る外部環境の変化
今年もあと少しという年末に原稿を書いています。すでに歴代ドクターの中で私の在職期間が最長の10年目に入るというタイミングです。その振り返りや今後の抱負などは10年の節目で書ければと思いますが、地域医療を取り巻く外部環境の変化を痛感する年でしたので、少し紙面をお借りしたいと思います。
以前、ホームページに派遣スタッフゼロを謳っていた当院ですが、今年ついに短期派遣に頼らざるを得ない状況が発生しました。
と書くと、すわスタッフ大量離職か!
と受け取られかねないのですが、約10年というとちょっとした時間です。誰しもそれだけ年を重ねますし、50代後半だった看護師さん達はみなそれぞれ人生の次のステージに進んでいかれました。大きな疾病が見つかり、闘病しながら働き続けてくれたスタッフが複数おられ、今後の体調と治療も考えて地元に戻られたり、現場を離れられました。また自然豊かな当地で子供たちと一緒に過ごしながら当院を支えてくれていたスタッフも、お子さんの進学に伴い生活拠点を移されました。全く新たなフィールドに挑戦したいと踏み出していった若手のスタッフさんもおられました。みなそれぞれに人生を歩んでらっしゃって、残る我々としてはエールを送ることと何とかあとを引き継いでいくのみでした。
冒頭、外部環境の変化と申し上げたのは、退職と対になる新規の応募がめっきり減ってしまったことです。幸いこの間新人スタッフにも恵まれ、もう立派にプロフェッショナルぶりを発揮してくれています。資格取得後入職を考えてくれている話もありうれしい限りですが、出と入りのバランスが取れないのです。私の赴任当初は、派遣さんが次々現場に入り、同時期に複数名在籍していましたが、今ではその派遣すら応募がほとんど来なくなっています。常勤スタッフとなるとさらに厳しい状況です。
まさしく少子高齢化、若い働き手の急速な減少が医療現場でも現実味を帯びてきています。とりわけ看護職は深刻で、直接患者さんと接して身の回りのお手伝いをするのみならず、今日では特定医療行為と呼ばれる分野は医療の直接実施も担います。他施設・介護福祉分野との連携、医療安全・感染対策をはじめとする医療機関の管理業務、救急や当直勤務まで、病院業務の大部分を担っているといっても過言ではありません。
眼科や小児科外来など外部からの応援医が入ると、同時に3名医師の診察体制を運用できないため、常勤医1名は待機しています。またこれ以上コロナやインフルエンザ感染にて5日程度の病欠者が重なるだけでも途端に病院機能は一部回らなくなってしまいます。待ち時間が延びたりすぐに実施できない検査や処置がすでに発生しているのが年末時点の状況です。
厚労省で医師偏在問題が議論されていますが、団塊ジュニアが65歳以上となる2040年には医療従事者全体としてもさらに大きな不足が発生する予測です。地方はいち早くその影響を受けるでしょう。
現場では事務方は人員確保に奔走し、医師も看護業務のタスクシフト・タスクシェアに協力しています。抜本的な対策は決して容易ではありませんが、町内のご長老から以前頂いた言葉で、「町民はみんな家族みたいなものだから……」皆様方も病院スタッフも町を支える大切な存在ということで互いに理解し支え合う気持ちでいて頂けたら幸いです。今まで以上になるべく症状の軽いうちに診療時間内に受診して頂く、さりげなく感謝や励ましの声掛けがあったりするだけでもとても救われると思います。現場の危機感をお伝えしておくべきと思い情報提供させて頂きました。
(文責 病院長 橋本)
お問い合せ先:天塩町立国民健康保険病院
【電話】(2)1058
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