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自治体の皆さまへ

新春対談 生産者×料理人(1)

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北海道帯広市

-そのひと皿に思いを乗せて-

■それぞれのきっかけ
市長:食の豊かさの観点から都市を表彰する「美食都市アワード2024」の受賞都市に帯広市が選ばれました。冷涼な気候と広大な土地を生かした農畜産業や、地元産食材を用いた料理、北の屋台やとかちマルシェなど、開拓以来、育み、磨き上げてきた十勝・帯広の食文化が高く評価されたことをうれしく感じています。この受賞を契機に、市民の皆さんと十勝・帯広の食の魅力や新たな価値について考える機会を設けたく、「雪蔵甘熟(かんじゅく)メークイン」を生産している井上さんと、フランス料理店「マリヨンヌ」のオーナーシェフである小久保さんにお声掛けしました。
まず、井上さんにお伺いしますが、大正地区といえば、メークインの国内生産量で約3分の1のシェアを誇る一大産地です。皆さん大規模農業を営まれていると思うのですが、その環境の中で雪蔵甘熟メークインが生まれたきっかけを教えてください。
井上:メークインは30年ほど前から自前で選果場を持ち、箱詰めして出荷してきたのですが、冬の出荷が終わった後に自宅用として保存し芽を取りながら食べていたメークインが、甘味を増しておいしかったんです。また、以前から自分の育てた農産物がどんな人に届けられ、どんなふうに食べられているのか知りたかったので、「自分のジャガイモに付加価値をつけて直接販売をしてみたい」との思いがあり、雪蔵熟成を始めました。
市長:商品化するためには、マーケットの規模や設備投資についても考える必要が出てきますよね。事業として見通しを立てるにも、前例が無いだけに、手探りな面も多かったのではないでしょうか。
井上:ジャガイモは1〜2月に消費地での需要が高まり、相場も安定するので、僕の農場では主に冬に多く出荷しているのですが、だんだんと貯蔵庫が手狭になってきました。そこで、もう一棟建てようという話になったのですが、冬の出荷が終わった後、断熱が効いた貯蔵庫の夏場の有効活用として雪蔵熟成に取り組んだので、手探りでしたがリスクを抑えて始められました。冷媒としての雪はタダですし(笑)。
市長:なるほど。改めて身近にあったものの価値を見いだされ、まずはやってみようということだったんですね。
では、小久保さんにお伺いします。北の屋台でマリヨンヌを開業され、今では移転してお店も構えられていますが、料理人を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
小久保:ものづくりが好きだったこともあり、高校卒業後は大工をやっていました。でも、祖父が芽室町で精肉店をやっていて、ジンギスカンを買ってくれたお客さんに「もやしも持っていきな」と言って渡したり、祖母が経営していた居酒屋で、メニューには無いイクラ丼を出してあげたりして、お客さんがとても喜んでいたことを思い出すようになったんです。それで、やっぱり食と関わる仕事がしたいと、25歳の時に料理人になることを決めました。他の人と比べると、料理人としてのスタートは少し遅かったのかもしれませんが、今でも、芽室の農家さんなどから「あなたの実家のお肉よく食べているよ」とか「おばあちゃんの居酒屋よく行っていたよ」と声をかけてもらうことがあり、家業から生まれた食を介したつながりというものを感じ、うれしく思っています。

■北の屋台がつないだ出会い
市長:マリヨンヌでは、井上さんのメークインを使った料理を提供されているとのことですが、そこには、どんな出会いがあったのでしょうか。
小久保:北の屋台で開業して間もなく、お世話になっている生産者の方から井上さんを紹介されて、一風変わったジャガイモを試験的に作っているから試しに使ってみないかと薦められたんです。
井上:それで、お誘いを受けて小久保さんのお店に行った時に、店内の黒板に生産者の名前が入ったメニューがたくさん並んでいるのを見て、生産者のことを大切にしてくれるお店だなと感じました。何より、料理がとてもおいしかったので、ぜひ自分の作ったメークインも使ってほしいとアピールしたんですよね。
小久保:そうそう。試食してみたら圧倒的に甘くておいしかったんです。ものすごく特別感のある、商品力の高いジャガイモだと感じました。屋台の規模なので、量をたくさん出すことはできないけれど、せめて生産者や食材のことをもっと伝えられたらと思ったんです。「こういう素晴らしい生産者の方がいて、特別なジャガイモを作っているんですよ、おいしいでしょう」って。だから、自分の役割は広告塔だと思って使わせていただいています。
市長:小久保さんが一種のマーケティングを担っていると。それは、北の屋台がつないだ非常によい出会いだったということですよね。
井上:そうですね。マリヨンヌのお客さんから「おいしい」と言ってもらったことが僕にとっての原動力になっています。量を多く作って価格が高い時期に卸すとか、高く買ってくれるところに卸すということが我々生産者のビジネスの基本になっているけれど、初めてそういった感想をもらえたことで、「おいしいものを届ける」という、忘れかけそうになっていた大切なことに気付けたのはありがたいです。

◆とかち井上農場代表 井上慎也(いのうえしんや)
帯広市出身、大正地区桜木町で46haの農場を営む農家の4代目として、メークイン、小麦、大豆を生産。2014年から雪蔵を使ったメークインの熟成に取り組む。2023年には野菜ソムリエサミットにて「二冬越」が青果部門の金賞を受賞。2024年には最高金賞を受賞。全国のレストランなどで支持を得ている。ふるさと納税の返礼品としても人気があるほか、JAL国際線ファースト・ビジネスクラスの機内食に採用されるなど、全国的にも注目を浴びている。

◆雪蔵甘熟メークイン二冬越(ふたふゆごし)
雪をコンテナに詰めて、外部の熱を遮断した倉庫に入れる。雪の効果で庫内は1~2度に保たれ、高湿度を維持する。ジャガイモは凍ってしまわないように体内のでんぷんを糖に変え、二冬越の糖度は約12度まで上がり、甘さと蜜が入ったような食感となる。

◆収穫から雪蔵熟成まで

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