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自治体の皆さまへ

新春対談 生産者×料理人(2)

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北海道帯広市

■生産者と料理人のつながりが新たな価値を生む
市長:お二人の話を伺っていると、生産者と料理人がつながりを持ち、信頼関係を構築することが重要なんだなと感じました。信頼関係があるから、生産者は「この人ならもっとおいしく大切に料理してくれる」と期待して自分が作ったものを託すのでしょうし、そこから新しい価値が生まれる、そんな風に思うのですが。
小久保:実は井上さんと出会うまでは、スーパーの食品売場で売られていたジャガイモの中から、おいしいと思ったものを使っていました。でも、井上さんが店に足を運んでくれて、会話を通して、初めてどういう思いで作っているか知ることができたんです。直接会って、人となりを知ることで、素材の良さだけではなくて、生産者の思いも一緒に料理に乗せられるんだと思います。
井上:僕が客としてマリヨンヌに食事に行くと、小久保さんから「今食べたジャガイモは隣の方が作られたんですよ」と紹介されることがあるんですが、お客さんが特別感を感じてくれているみたいで、思わず僕もうれしくなっちゃいます(笑)。
市長:いいですね。そうした体験ができるのも、生産者が身近な存在にある十勝・帯広ならではの食文化の一つですよね。
小久保:現在の店舗では、メニュー表も料理名ではなく食材名を書いていて、料理をお出しする時に、必ず生産者さんの説明をさせていただいています。一皿に対する情報量が豊富だと皆さん言われますね。屋台時代から多くの生産者に支えてもらって、素晴らしい食材を提供いただいていることも、店の評価につながっていると思っています。
市長:なるほど。そうした評価を得るには、生産者とのつながり、そして、常に料理人としてのさまざまな自己研鑽が求められるでしょうし、他の料理人や美食家とのネットワークなども必要となってきますよね。お二人から見て、そうした機会を増やす秘訣は何だと思いますか。
小久保:そうですね。十勝の料理人や生産者で集まって勉強会を開催していることでしょうか。この前は、札幌からトップクラスのシェフを招いて、十勝の食材を使った新しい野菜料理へのアプローチを、みんなで試してみました。
井上:小久保さんのように地域食材の魅力を発信してくれる人がいるので、全国から視察が増えたり、僕のメークインの他にも十勝の生産者や飲食店がJALの機内誌で特集されたりして、十勝の食の付加価値や注目度がより高まってきたように感じています。十勝には野菜だけでなく肉やチーズなど、こだわりの生産者がたくさんおられるので、全国のシェフが注目し訪ねて来ます。そうした中で直接お会いして、つながりができていくことが多いですね。
市長:今伺ってきたような、食が豊かで、前向きな生産者もたくさんいるというのも、他の地域にはない十勝・帯広の魅力ですよね。フードバレーとかちでも、よく付加価値という言葉を使うんですが、基本価値、つまり生産される農畜産物の価値を高めることが、付加価値を生み出すことにつながるのだと、今のお話を聞いて改めて感じました。

■食に関わる豊かな人材が食の価値を高める源泉
市長:井上さんが雪蔵熟成に取り組んで10年、小久保さんもマリヨンヌを開業されて10年経ったと伺いました。節目を迎えられたお二人から、この十勝・帯広というフィールドで、これから先、食とどのように関わっていきたいかなど、お聞かせいただけますか。
井上:ここ数年、料理人やフーディー※といわれる美食家の方たちの農場視察ツアーを受け入れることがとても増えて、雪蔵や畑を見せて説明するとすごく感動してくれます。農業という営みそのものを見せるだけでも十分価値があることを知り、潜在的な部分も含めて、この地域はまだまだ観光資源としての伸びしろがあると感じています。また、熟成に取り組むようになって、いろいろな外の方とお会いする機会が増え、思っていた以上に「食のまち」としての魅力がある、自信を持っていいんだということに気付かされました。市民の皆さんにもこの地域がそう見られていることを知って欲しいし、美食のまちとして地域全体で盛り上げられたらと思います。
小久保:僕は、十勝は第一次産業が盛んで、生産者と料理人が直接つながれる地域だというのが何よりの強みだと思っています。料理がすべて十勝産食材で構成できる、そこまで恵まれた土地ってなかなか他にはないと思うんです。羽田空港から2時間もかからずに来られますしね。これからも勉強会の開催などを通じて、食材へのアプローチの仕方や生産者とのつながりなどを増やしていきたいと思っています。そして、自分の持っているノウハウやつながりを縦にも横にも広げて、十勝・帯広の食を盛り上げていきたいです。
市長:生産者、料理人、消費者、この三者が身近にあり、そして何よりも、食に対して覚悟と責任を持って取り組まれている人が多くいらっしゃることが、この地域の強みであり、食の価値を高めている源なのかもしれません。これからも、食の魅力を高め合い、広めていきたいですね。
本日はありがとうございました。
※フーディー:料理や食への関心が高い人々。特に美食を追い求めて旅をしながら世界中の一流レストランなどを巡り歩く人々をいう。

◆美食都市アワード
「美食都市研究会」と食の専門誌「料理王国」が創設した、食の豊かな都市を表彰するアワード。
地域の食材を生かした独自の料理や食文化の発展に優れた都市に贈られる。
第1回目となる2024年は、審査委員から推薦された51の都市から、10都市がノミネートされ、5都市が認定された。

▽受賞都市
帯広市
金沢市(石川県)
鶴岡市(山形県)
京丹後市(京都府)
雲仙市(長崎県)

◆マリヨンヌオーナーシェフ 小久保康生(こくぼこうせい)
芽室町出身、帯広調理師専門学校卒。市内のフレンチレストランなどで修行した後、2014年に北の屋台にマリヨンヌを出店。(現在はマスヤビル1階で営業)
ミシュランガイド北海道2017ビブグルマンに選出されたほか、本場フランスのレストランガイド「ゴ・エ・ミヨ」に2021年から4年連続で掲載されるなど、十勝産食材をふんだんに使った料理と高い料理技術で、多くの食通から評価を受ける。

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