■あいさつの言葉
アイヌ語にはもともと日本語の「こんにちは」「さようなら」のような気軽に使えるあいさつの表現はありませんでした。広い北海道に数万人ほどしか人が暮らしていなかった時代、離れて暮らす親戚や知り合いと出会うことは、今よりはるかに珍しかったことが関係しているでしょう。
十勝地方のアイヌ民族は、比較的礼儀正しいあいさつとしてイシオロレ《ごあいさつ申し上げます》という言葉を使っています(釧路の方ではイッソロレのように発音します)。この言葉は胸の前で両手を上下させる拝礼(オンカムイ)をしながら用いる言葉でしたが、近年では「こんにちは」のようにも使われています。
また、イナンカラプテ《ごあいさつ申し上げます》(イランカラプテは北海道南西部の発音です)という言葉もありますが、これは拝礼(オンカムイ)をするときに男性のみが用いる言葉であるとされます。こちらも「こんにちは」や「お久しぶり」に当たる表現ではありませんでした。
あいさつには、それを使う人たちの文化や社会が反映されています。イシオロレなどを使うときにも、ただ「こんにちは」の置き換えとして使うのではなく、こうした言葉の背景も学んでいくことが大切です。
※「イナンカラプテ」の「プ」、「イランカラプテ」の「プ」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
文:阪口 諒(さかぐちりょう)
問合せ:生涯学習課学芸員
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