舟(チプ)
アイヌ民族のなぞなぞに「足がないのに国中を旅するものなあに?」というものがあります。答えはチプ《舟》です。かつて、アイヌ民族の交通・運搬は舟を使った水運が中心でした(時代が変わって主な交通手段が変わっても、自動車を《陸を走るチプ》、飛行機を《空を飛ぶチプ》のように表現した例もあります)。
川は交通路として重要だったので、北海道各地に川にちなんだ地名がたくさんあります。江戸時代などに和人が調査に来た時や、明治になって本州から移住者がやってきた時、地図を作る時などには、アイヌ民族の舟に乗って移動したり、アイヌ民族に案内してもらったりすることが必要だったので、アイヌ語のペッ《(流れとしての)川》やナイ《(地形としての)川》に由来する〜別や〜内という地名が現在でも数多く見られます。川の漁や交通ではカツラなどの木をくりぬいて作る丸木舟が用いられました。櫂(かい)をこぐことで下流へ、竿で川底を押すことで上流へ向かいました。水源の山を越え、別の水系へ出ることもありました(かつての舟の多くは数人で持ち運べる軽いものでした)。このほかに、山での猟の獲物が多かった時、即席のヤッチプ(ヤㇻチプ)《樹皮舟》も使われていました。海では、舟に板をとじつけて側面を高くしたイタオマチプ《板つづり船》などが漁と交易に活躍していました。
※「チプ」の「プ」、「ヤッチプ」の「プ」、「イタオマチプ」の「プ」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
文:阪口 諒(さかぐち りょう)
問合せ:生涯学習課 学芸員
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