■幕別の由来と方角の表現
広報2月号で扱ったチプ《舟》のところで触れたように、アイヌ民族の生活と川は密接な関わりがありました。そのため、アイヌ語では、川を基準とした方角の表現が発達しています。南北のような方位はほとんど使われず、上流の方に向かうのか、下流の方に向かうのか、流れに対して垂直の方向に向かうのかなどを表し分けていました。
さて、幕別の語源はマクンペッ(マクウンペッ)とされています。北海道各地にあるマクンペッは、大きな川から分かれてから本流に合流している川のようです。『幕別町史』では「山際を流れる川」や「後川」のように説明されています。
マクンペッは分解すると、マク《山手》ウン《にある》ペッ《川》となります。マクという言葉は、内陸部では、川の流れに対して垂直な方向のうち、川から離れたマク(高い)土地の方を指します(上流の山はキムと言います)。それに対して、川岸に近い低地はラと言います。帯広や幕別では十勝川が基準なので、東西南北で表すと、マクが南でラが北になります(地域が変わると基準となる川の流れる向きが異なるので、マクやラの方位が変わります)。幕別の由来となったマクンペッは、どの川を指すのかははっきりと分かっていませんが、十勝川の南側のマクを流れる川だったと考えられます。
帯広生まれで幕別に暮らしていたアイヌの音楽家である安東ウメ子さんは、有名な歌「北国の春」をアイヌ語で「エラシ アン タンパ(エラシ(に)・ある・今年)」と表現していました。帯広や幕別では、エラシは、エマカシ《山手へ》(マク《山手》を含む語)に対して、《川岸の方へ》(ラ《川岸の低地》を含む語)、つまり「北の方へ」を指していたので、この言葉を「北国」の訳語にあてたようです。
※「チプ」の「プ」、「マクウンペッヤッチプ」の「ク」、「マク」の「ク」、「キム」の「ム」は環境依存文字のため、置き換えています。正式表記は本紙をご覧ください。
文:阪口 諒(さかぐち りょう)
問合せ:生涯学習課 学芸員
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