◆子育てを支援する人に向けて
◇子育てを支援する人のあり方
私自身は、教育相談・保育相談・子育て支援のカウンセラーとして、永く勤めておりましたが、出逢った人(子どもや保護者)と「いま・ここで・あたらしく」より良い人間関係を創造していくことを大切にしてきました。ありのままのその人を「満点」と捉えて、その人の人生をその人自身の力で前向きに進めるようにともに歩む。その在り方の中には、「評価」や「指示」や「依存・非依存」の関係は必要ないと自分を戒めながら取り組んでいました。今思えば、本当に数えきれない人たちと出逢いの中で、私自身の在り方とも向き合うことができ、人として成長できたことに感謝しています。
今年あった出来事です。仕事で疲れ切った状態で帰りの電車に乗っていました。ある若い母親がベビーカーに生後8か月ほどの女の子を乗せて私の隣の席に座りました。お母さんの顔が見えない態勢で「泣くかもしれないな」と思った途端に女の子が泣き出します。でも、すぐさまお母さんが女の子を抱き上げて優しくあやし始めます。安心したその子は隣にいた私に興味を持ったのか触ってきました。「すみません」お母さんの言葉に「大丈夫です。子どもに安心できる人と認めてもらえるのは光栄なことです」と返して、それをきっかけに、子どもと母親と私で楽しいひと時を過ごすことができました。ほんの2駅ほどの短い時間ですが「子育て楽しんでいますか」の私の問いかけに「とても楽しいです」と笑顔で答えてくれた、その親と子の姿を見て、私もすっかり元気になって、子育てを支援する人たち(保育者)をこれからもしっかり育てていこうと、気持ちを新たにしました。
どんな時でも、「いま・ここで」出逢った人といい関係を創る。その在り方こそが、どのような理論や知識、技術に優るものと思います。子育てを支援する人は「何かできるか」ではなく「どのように出逢うか」が大事なことのように感じられます。
◇これから子育て支援者として活動したい人へ
いま、国の施策として特別な支援を必要とする子どもを中心に「切れ目ない子育て支援」、地域ですべての子育てを支える「アウトリーチ型の支援」という方向性が示され、各地域で独自に「子育て支援員(アドバイザーなど様々な名称があります)」を養成して、家庭教育支援や子育て支援に活用しようと取り組んでいます。
専門的な知識や技術、資格がない人でも、子育てを支えられる人として地域で力を果たしたいと考える方もおられると思います。私は保育者養成の傍らで、対人支援職の方々の研修・養成にも携わってきました。学ぶ意志があれば知識や技術は学び、身に着けることは可能です。特に、自分で抱え込みすぎて互いに辛い事態にならないように、支援者としてできることとできないこと(制限)についてはしっかり学び、理解して活動していただきたいと願います。
子育てを前向きに進めていく力はその人中にあります。それを活かして背中を支えて後押しする。そのような役割が取れれば最善ではないでしょうか。肩に力を入れすぎずに、ともに歩める支え手になっていかれることを期待しています。
[杉本太平(すぎもとたいへい) プロフィール]
宇都宮共和大学子ども生活学部教授。資格は認定心理士、人間関係士。
東京都文京区教育センターの心理相談員や埼玉県下で乳幼児健診・乳幼児発達支援・子育て支援などに従事し、現在大学において保育者養成に務めている。その他、人間関係・HRST研究会会長として関係学理論を背景に独自に開発した地域住民や対人支援の専門職者を対象に心理劇を用いたアクティブラーニング(HRST)の研修会を主催し、子育て支援者の養成を中心に各種の講演活動、子育て・人間関係に関する出版物の発行を行っている。
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