■閉館間近の鰊御殿
鰊御殿とまり館長 増川 佳子
残暑が長く続いた秋でしたが、草木が色づき始めるとともに一気に肌寒くなりました。11月霜月7日は立冬。雪虫、霜柱、初雪を経て本格的な寒さが訪れ白い冬がやってきます。晩秋になると童謡「まっかな秋」を思い出します。学芸会で2部合唱したことまで思い出します。「まっかだな まっかだな つたの葉っぱがまっかだな もみじの葉っぱもまっかだな」というフレーズに登場するもみじと蔦。私の秋のイメージは真っ赤です。
特に家の壁などに這わせている蔦の紅には目を奪われます。ヨーロッパでは魔除けの意味もあるといわれています。日本の魔除けや縁起物は度々紹介しておりますが、今回紹介するのは武井邸客殿の付け書院の透かし彫りにも用いられている“麻の葉模様”。一世を風靡した“鬼滅の刃”の主人公竈門炭次郎の妹禰豆子(ねずこ)のピンク色の着物の柄が六角形を重ねたこの麻の葉模様です。麻は成長が早く、まっすぐにぐんぐん成長していくため、「子供の健やかな成長」を願う厄除けや魔除けの意味があり、昔から産着や子供の着物に使われていたようです。ちなみに客殿付け書院の透かし彫りは端の方にあるため見過ごしてしまいそうなのですが、とても細かな細工に感嘆の声をあげられる方もおります。さて、秋になり湿度が下がると、海の向こうに青い岬が連なって見える日が多くなります。岩内町の弁慶の刀掛け岩、寿都町の弁慶岬、さらに遠くに後志と桧山の境目にある茂多岬と狩場山まで見えます。「今日はお天気がよくてよかったですね。」と言って岬の名前などをお知らせしています。
泊村の岬といえばカブト岬ですが、先日、お客様が来館記念に差し上げている絵葉書をご覧になって「どうしてカブト岬っていうのですか。」と尋ねられました。兜の角の部分が落ちてしまった現在の姿からは“兜”は想像できませんものね。角のある時の写真をお見せして「兜に見えるでしょう?」とお答えすると納得してくれます。昔々、カムイシリパ(神の岬)として神聖視されていたカブト岬には、義経伝説を含めいくつかの伝説が残されています。その中からお気に入りを一つご紹介します。
昔、日本海の沖合に赤い火を吐く大怪物がいて、漁に出る人々を困らせていました。ある日のこと、一人の若者が漁に出ると、海の女神が現れ、漁民の難儀を憐み、霊験ある赤銅の兜と剣をその若者に授け、怪物を退治せよと命じました。怪物の怒りで大しけになった海上で、若者は怪物と激しく戦いました。戦いは若者の勝利に終わったのですが、赤銅の兜を海中深く無くしてしまいました。その時失った兜が岩となったといわれています。
『鰊御殿とまり』は、今月10日をもって今年の営業を終えます。今年も泊村の方から遠くは上海やドイツ等海外の方までお越くださいました。先月の初代川村慶次郎生誕200年と川村家番屋建立130年の記念事業では多くの方々と一緒にお祝いもできました。皆様にはこれから訪れる白い冬を健やかにお過ごしになられ、この次の若草色の春からも『鰊御殿とまり』をご贔屓にしてくださいますようよろしくお願いします。
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