■年取りのご馳走
鰊御殿とまり館長 増川 佳子
師走となりました。今年も残り1カ月かと思うと、特に何かをしなければならない訳ではないのですが、気忙しい心持ちになります。子どもの頃、年賀状・クリスマス・餅つき・年越…と、年末12月のイベントに心を躍らせていた名残でしょうか。
“12月31日の大晦日に家族でご馳走を囲む”ことが北海道だけの習わしであることや“おせち”という言葉を大人になってから知りました。子どもの頃の大晦日には、朝から家中に煮物などの匂いが漂い、そんな中で神棚と床の間を整えて、御神酒とお膳を供えて、年取りのご馳走を家族で囲みました。鮭の焼いたのや飯寿司などと一緒に“鰊漬”と“鯨汁”が並びました。
春にとれた鰊を身欠きニシンにして保存し、雪虫の飛び交う晩秋に大根やキャベツ、人参と一緒に米麹と塩で漬け込んだ鰊漬は、鰊が豊漁だった頃からどこの家庭でも作られていたように思います。当時、12月も末になると鰊漬の樽を置いていた我が家の物置はものすごく寒くなり、シャリシャリと凍っている鰊漬でした。(今は家の中が暖かいのですぐ酸っぱくなってしまいますが。)
そして鯨汁。調べてみると鰊漁と深い関わりがあることが分かりました。
「鯨汁」は道南地方の正月料理に欠かせない料理。正月が近づくと、大鍋に塩くじらと野菜を煮込んで、正月の三が日に食べる習いがあります。何度も温め直して食べるため、一緒に入れる野菜は荷崩れしない食材が使われます。
江戸時代から明治時代にかけて鰊漁が盛んに行われていた時代、道南地域では“鰊を岸に追い込んでくれる”くじらは、縁起の良い動物としてあがめられていました。初春から始まる鰊漁の豊漁を祈願するため、正月に食べられてきたとされています。また、巨大なくじらの姿にあやかって、大物になるようにと縁起を担いで、年越しや正月に食べる地域もあります。北海道では、タンパク源となるくじらは貴重な食材であり、厳しい冬を乗り切るために塩蔵した塩くじらを作り保存食としていました。また、一緒に煮込む食材も晩秋の季節に収穫した越冬野菜(大根や人参等)や塩漬けにした山菜(蕗や竹の子等)といった保存食で作られていました。栄養価の高い「鯨汁」は、極寒の北海道の冬を乗り切るためには欠かせない料理でもありました。
[農林水産省 うちの郷土料理より]
家族が小さくなってしまったこの頃、鰊漬や鯨汁を用意される方はどの位いらっしゃるのでしょう。懐かしい味を味わう機会が失われていくのは寂しいものですが、残念なことに漬物樽も大鍋も我が家ではもう物置の奥に眠ってしまいました。
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