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自治体の皆さまへ

男女共同参画コラム

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北海道浦幌町

■連載148
仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝

ウィズコロナからアフターコロナへと、社会生活が元に戻りつつあることを実感します。
農林水産業とともに北海道の重要な産業である観光業も復活しつつあります。観光需要の回復は明るい話題です。その一方で、観光人材の不足が問題となっています。最近の話題として、道内有数の観光地である函館市及びその近郊において、宿泊施設やバス事業者が、旧来の常識に捕われない発想による省力化や人材確保に取り組んでいる事例が紹介されていました(「北海道新聞」2023年6月27日付記事)。試行錯誤と創意工夫の連続ですね。
究極のサービスは、やはり人による対面サービスでしょう。あくまでも私見ですが、効率化・省力化ありきで、ITやデジタルが前面に出てくるならば、どうしても無機的であり、温かみに欠けてしまいます。レジャー化の本質である非日常性を提供する観光産業は、労働集約型産業の面を色濃く残していると言っても過言ではありません。
教育分野においても対面の価値は、いささかも失われていないと思います。もちろんオンライン授業も普及してきました。ですが、教育の原点は寺子屋と信じて疑わない私ゆえ、対面型でおこなう生徒・学生との双方向授業・講義は、教育効果は高いと言えるでしょう。
知識情報化社会において、経済のサービス化・ソフト化が進展していく中で、ますます人間労働のあり方が問われているのではないでしょうか。これまでは、肉体労働(「ブルーカラー」)、頭脳労働(「ホワイトカラー」)という分類が一般的でした。さらに最近では、感情労働が注目されるようになってきました。感情労働は、米国の社会学者であるアーリー・ラッセル・ホックシールドが提唱した新しい労働概念です。感情労働を簡潔に説明すれば、顧客満足度を高めるために、自分自身の感情を制御・管理して、適切な言葉・表情・態度で顧客に対応することが求められる労働形態です。人と接する職業に当てはまります。
あくまでも私の独断と偏見ですが、接客を主たる業務とする職業にとって求められる資質は、安定性であると思います。安定性とは各人のスキルとノウハウの質的水準が一定以上であることもさることながら、自身の感情を表に出さないように制御・管理できる能力が備わっているということです。直情型では困ります。常に冷静かつ理性的に対応する。
それは口では簡単に言えることですが、実際にはなかなか難しいことですね。けれども、意思あれば、道ありでしょう。まずは、露骨に感情を顔に表さないことが絶対条件。顧客の指摘や主張あるいは苦情や批判に誠実に耳を傾ける。途中で話を遮らない。反論や反証をする必要があるときには、相手に根拠や理由を丁寧に説明して受け入れてもらうように最大の努力を傾ける。頷きやお辞儀という非言語的な動作にも注意を払うことが大切です。
他方、部下が失敗を犯したならば、踏ん反り返って叱責しない。大声で怒鳴らない。状況を把握して原因を分析したうえで、改善や修正を共に考えて着実に実行していくように支援する。叱責するよりも諭す方が効果的な場合もあるのではありませんか。
ただし、感情労働は精神的疲労が大きいことも事実です。ならば、その疲労回復を如何に図るか。それは人それぞれでしょうが、生き抜く力の一つであることに違いなし。

▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。

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