■連載164
▽仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝
いよいよ長い冬の到来ですが、冬支度は如何でしょうか。寒さに負けずに健康第一。
さて、組織では昇進・昇格、すなわち出世はつきものです。「俺は出世など望んでいない」「肩書きが無くても仕事は出来る」などという考え方もあるでしょう。あくまでも私見ながら、仕事の面からは、出世しないよりも、やはりした方がいいのではないでしょうか。なぜならば、職位・職階が上がるにつれて、より多くの権限と予算を持ち、そしてより多くの部下と仕事ができるからです。正しく権限と予算を行使して、部下に動いてもらうならば、より大きな意味ある仕事に挑戦できるのではないでしょうか。成果が出れば、それは自分の手柄とすることなく、課や部の全員のお陰だと心から感謝することは、人の道。
能力や人望が無いにもかかわらず、単に上昇志向だけが強く、内部の人間関係だけを意識して処世術を駆使して出世しようとする輩は、どこの組織にもいるでしょう。本人は満足でしょう。やたら上司風を吹かせても、部下は誰も納得していないゆえに、面従腹背。
出世を否定することなく自然体で、誠実に仕事に取り組んでいくことも大切では。ポストを無理に求めたり、焦って取りにいったりする愚を犯しては見苦しい限り。ポストは与えられるもの。ひたすら正道を歩んでいくならば、結果は後から付いてくるでしょう。
しかるに、いわゆるZ世代は出世に関しては、どうも避けたい一面が垣間見えます。ちなみにZ世代とは言うまでもなく、1990年代中盤から2010年代序盤に生まれた世代です。年齢的には、13歳から29歳前後の年齢層です(2024年現在)。日本ではゆとり世代の次の世代として、デジタルネイティブ世代とも呼ばれています。
社会人・学生(18~26歳)男女411人のうち「出世したくない」と回答した男性100人と女性123人に対して、その理由を聞いた調査結果を紹介しましょう。「責任が重くなるから」が男女とも第1位であり、男性48・0パーセント、女性63・4パーセントでした(SHIBUYA109lab.「Z世代の仕事に関する意識調査」(2023年1月))。女性の方が管理職・経営職に就くことを避ける傾向が強いですね。どうしても地域の企業・団体では、未だに男性中心の職場が多く見られることも現実です。女性では「プライベートを重視したいから」が第2の理由で、43・6パーセントでした。「将来結婚しないと思う理由」を調査した結果からでも、女性(17~19歳111人)では「1人でいる方が精神的負担は少ないから」が52・3パーセントで第1位でした(日本財団「18歳意識調査「第52回価値観・ライフデザイン」報告書」(2023年1月))。
男性よりも女性の方が責任や負担という重荷を背負うよりも、自分の時間を大切にしたいという意識が強いとも読み取れます。出世観は仕事観と同様に、その人の人生観や価値観が投影されると思います。また、結婚する、しないは個人の自由です。現代は「個」の時代であって、生きがいよりも生き方が重視される時代ですから。
自分が好きなことに集中したり、やりたいことだけに特化したりして、人生を送ることが出来るならば、それはそれで幸せでしょう。けれども、人は人との関係性の中で生きていくことも紛れも無い事実です。性差を問わず誰もが人生哲学・仕事哲学が問われるのでは。
▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。
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