■連載166
▽仕事について考える
稚内大谷高等学校校長 平岡祥孝
年が明けて早くも1ヶ月を迎えようとしています。「1年の計は元旦にあり」ですが、浦幌町の皆様におかれましては、それぞれ何か願いなり、目標なりを持たれたことでしょう。
さて、昨年11月、石破首相は「若い人や女性に選ばれる地方を作ることが、新しい地方創生の核心である旨の発言をされたそうです(『読売新聞』2024年12月1日付朝刊)。若者や女性に選ばれる地方づくりの重要性は、地方が直面している人口減少高齢社会の対策として極めて有効であると、私は思います。あくまでも私見ながら、従来の少子化対策は合計特殊出生率向上に重点を置いた政策が中心であったと言っても過言ではないでしょう。
子どもを持つことは一般的に幸せと言われます。もちろん幸せの感じ方は人それぞれであって、主観的であることは承知しています。けれども、日本の女性が置かれている環境、すなわち家事や育児の負担が女性に偏っている環境で、果たしてそう言えるのでしょうか。
自然減に歯止めをかける政策の実効性が問われ始めています。ましてや自然増に転換させる有効な政策はあるのでしょうか。私は甚だ悲観的です。それゆえ、都心回帰の現実を直視するならば、地域から都市部への流出を可能な限り防いで、社会減を食い止める地域政策が重要ではないかと、私は考えます。
有効求人倍率から見る限り、地域に雇用機会は存在します。ですが、若年女性の流出を防ぐためには、未だ男性中心の職場が多いとも言われている地元の企業・団体が、処遇・待遇の面から女性の雇用力をさらに改善しなければならないでしょう。
また、余暇の面からは地域特性を踏まえて、豊かなストック社会を構築し、魅力あるまちづくりに取り組むことが必要ではないでしょうか。若者が飲食・買い物・娯楽を選択的に楽しむことができ、良質な時間消費が可能な空間を創出したいものです。来街者を増やす集積の経済を実現するためには、ハードを整備した上で、様々なソフトの施策を打っていくことが肝要です。
最初に需要ありきの発想から、先行的にユニバーサルデザイン型の中心街の供給力と集客力を高めて需要を呼び込む発想に転換し、老若男女が集うダウンタウンの活性化を図ることです。地域の生活環境向上の基盤となる豊かなストック社会を目指すためには、既存資源の有効的活用を含めて、一定の規模と水準のハード整備が求められます。ここは財政出動の出番です。使途・目的が明確となるクラウドファンディング型ふるさと納税を財源とした重点投資は、一考に値するのではないでしょうか。中心街活性化は、郷土愛や家族愛を持ったUターン就職や挑戦心や進取の気性を持ったIターン就職の増加に繋がったり、あるいは関係人口や交流人口への波及効果が見込まれたりすると、私は期待します。
軽率の謗りを免れないことを承知の上で、最後にあえて一言。地域性の問題が若年女性の流出に関わっていると、私は推察します。「個」の時代にあって地縁・血縁が強い地域ほど、日常生活に息苦しさを感じるのでは。都会生活では人間関係が希薄であることを気楽に感じる女性も少なからず。絆の大切さは否定されるべきではありません。でも、伝統的価値観や旧来型慣習・因習から解放されたい気持ちを持っても不思議ではありませんね。
▽ひらおか・よしゆき
元札幌大谷大学社会学部教授。英国の酪農経営ならびに牛乳・乳製品の流通や消費を研究分野としている。高校生・大学生の就職支援やインターンシップ事業に携わってきた経験から、男女共同参画、ワーク・ライフ・バランス、仕事論、生涯教育などのテーマを中心に、講演やメディアでも活躍。
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