■タンチョウの天敵は誰だ?
皆さんの中には「天敵(てんてき)」という言葉を見聞(みき)きした方も多いでしょう。
どうも相性(あいしょう)が悪く、こちらの考えや振る舞いを鋭く批判するヒトを、冗談めかして言うときもあります。が、本来は生物学用語で、食う・食われるという食物としてのつながり(食物連鎖(しょくもつれんさ))のなかで、食われる方から見た相手を指す言葉です。つまり、ネズミにとってネコは天敵です。
では、なぜ敵ではなく「天敵」と言うのでしょうか。それは「不倶戴天(ふぐたいてん)」という句が「敵」の前についていたからで、「俱ともに天を戴(いただ)か不(ず)」、つまり「同じ天下(世)にいるのを許さない敵」を短く言って「天敵」です。もちろん中国由来の言葉です。
とすると、タンチョウの天敵は誰(だれ)でしょうか。はっきりしているのはまずキツネです。2羽のオスのタンチョウが縄張(なわば)り争いで喧嘩中に、生後2週間ほどのヒナをキツネが咥(くわ)えて走り去るのを見たヒトがいます。次はオジロワシです。生まれて20日ほどのヒナを脚でつかみ巣へ運ぶ写真や、飛べないヒナを何度も空から襲(おそ)い、タンチョウの親が2羽で防戦する動画もあります。
目撃や写真はありませんが、外来種のアライグマも危険動物で、舞鶴遊水地では毎年罠(わな)をかけて駆除(くじょ)しています。ほかに猛禽(もうきん)類のチュウヒなども居ますから、小さいヒナには危険がいっぱいです。
そして、ついに事件が起きました。舞鶴遊水地のタンチョウは昨年初めて2羽の子を飛べるまで育てました。2羽育てるのは繁殖成功番(つが)いのわずか17%ほどですから、2020年の繁殖開始以来初の快挙(かいきょ)を喜んでいました。ところが10月29日に事故が起きたらしく、翌30日は1羽だけ幼鳥を連れた親が、遊水地の東南端で、遊水地へ向いて大声で鳴いていたそうです(写真)。「呼び合い発声」という仲間や家族を呼ぶ行動です。が、行方(ゆくえ)知れずの子の応答はなく、数日で親の鳴く行動も消えました。ヒナは飛べるようになってからでも、独立するまでに5%くらいは亡くなるようです。ヒナが今回いなくなった原因は、まったくわかりません。
食う・食われるの関係は、現在の地球上で動物たちが共存するための一つの方法として、やむを得ないことでもあります。しかし、相手を食べつくしてしまえば、餌が無くなり、天敵とされていた動物も消える可能性が生じますから、バランスが大切なのです。
さて最後に、タンチョウにとり最強の天敵を挙げておきます。その動物の名はヒトです。タンチョウが20世紀初頭に絶滅の淵(ふち)に立たされたのも、ヒトがタンチョウを食べるため長年(ながねん)狩猟を行ったのが大きな原因の一つです。タンチョウ滅亡の瀬戸際(せとぎわ)で、ヒトが天敵から保護者へと対応を変えた点は、ヒトという生き物の能力の高さを示すものでしょう。しかし、果たして永久に保護者であり続けられるのか、私の胸中に疑念(ぎねん)があるのも確かです。(文:正富宏之)
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