○母との料理の思い出
母は料理が好きな人でしたが、認知症の初期のころから料理をしなくなってしまいました。料理はたくさんの工程があるのでとても難しいものです。自分がどこまでやったのか忘れてしまったら料理が怖くて続けられなくなってしまいますし、頑張って作ったものを家族から「いつもと違う」と味付けを責められたりすると、自信をなくして次第に無気力やうつ状態につながっていく可能性もあります。
母と病院に行った帰り、「週に3回は母と台所に立とう」と決めました。一緒に料理をしてみると途中で立ち止まってしまうことがありましたが、隣で少しサポートするだけで、また料理を続けられました。認知症は進行性のものと言われていますので、初めのころは料理ができなくなったら次は何ができなくなるのだろうと思っていましたが、3年間一緒に台所に立ち、母は再び料理ができるまでに戻ることができました。
○認知症の人はなぜ家に帰りたがるのか
アルツハイマー病の人が、亡くなった両親がまだ生きているかのように振る舞うことや「家に帰る」ということを話すことがよくありますが、この理由は科学的にはすでに解決されており、海馬に傷が付いた影響で毎日何らかの失敗を繰り返し、時に家族に驚かれたり嫌な顔をされたりすると、不安が大きくなってしまいます。頭の中では安心できる存在を探し、両親のことを思い出して探したり、「両親と一緒に安心して暮らしていた家に戻りたい」という気持ちが大きくなるため、そのような言動につながると言われています。認知症の人は、自信をなくし不安な気持ちであるということを理解することが大切です。その不安な気持ちに寄り添えれば、本人の自信につながっていきます。
人間が生き生きと暮らしていくためには「安全基地」が必要だと言われています。こどもが新しいものに挑戦するときに「お父さんお母さん、見てみて!」ということがありますが、これは「もしものときに助けてね」というメッセージです。冒険を支えるための存在を「安全基地」と言います。安全基地があれば認知症の人も、新しいことに挑戦できます。私たちがいかにこの安全基地になれるのか、ということが大事なのです。
○その人らしさはどこにあるのか
私は、その人らしさはどこにあるのかということを研究してきましたが、「感情」にあるのだと結論付けました。感情はずっと残り続けるので、感情に働きかけるといつまでもその人らしさをみることができます。
人の「役に立ちたい・恥ずかしい・愛情」という三つの感情は、認知能力がなければ持てない感情だと言われています。認知症は、認知能力が全て駄目になってしまうことは決してなくて、複雑な感情も全て残っているのです。
◆認知症への理解を広げるための音更町の取り組みについて
音更町は、認知症ガイドブックを作成しています。ここには、認知症を正しく理解し、認知症当事者や家族に役立つ情報と、認知症の心配をした時から症状が進行していく中で、いつ、どこで、どのような医療や介護サービスを受けたらよいのか分かるようにした「認知症ケアパス」を掲載しています。
認知症の人やその家族が住み慣れた地域で安心して暮らしていくために、このガイドブックをご活用ください。
認知症ガイドブックについては、保健センター内高齢者福祉課で配布しているほか、左記に記載している二次元コードから読むことができます。
※二次元コードは本紙をご覧ください。
問合先:保健センター内高齢者福祉課
【電話】32-4567【FAX】32-4576
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